施設向けSaaSの利用者データ:契約の外にいる本人の同意と、医療との線引き

介護施設、保育園、学校に提供するSaaSでは、契約を結ぶのは施設ですが、データの本人は入所者、園児、児童生徒です。本人は契約の当事者ではないため、同意、利用目的の通知、請求の窓口を、施設と提供者のどちらが負うのかを、契約書で先に決めておく必要があります。

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データの本人が契約書に一度も登場しないSaaSでは、「必要な同意を取得したものとみなす」の一文だけでは、本人の同意の裏づけになりません。

このページの要点

  • 本人が契約者でない構造では、同意の取得・利用目的の通知・請求の窓口を施設に置き、提供者が自分の目的で使う分は別の条に立てる。
  • 顔の特徴などを変換した符号は個人識別符号に当たり得る。使う目的を本人確認に限り、保持の有無と再利用の禁止を書く。
  • 健康状態や障害に関する記述は要配慮個人情報に当たり得る。入力を同意とみなさず、取得の同意と撤回の手順を書く。
  • 「医療機器ではない」の一文では足りない。判断をしないこと、最終判断者、緊急通報の機能がないことを、規約と画面で一貫させる。公立か私立かでも規律が変わる。

結論:契約者は施設、データの本人は入所者・園児・児童生徒。同意と窓口の分担を先に決める

介護施設、保育園、学校、習い事の団体などに提供するSaaSには、通常のB2B(事業者間)のSaaSにない特徴があります。契約を結ぶのは施設ですが、システムに記録されるデータの本人は、入所者、園児、児童生徒といった、契約の当事者ではない人たちだという点です。本人は利用規約を読む立場にありません。本人の氏名や健康状態を提供者が取り扱うことに、誰が、いつ、どのような形で同意を得るのか。本人から開示や削除を求められたとき、誰が受け付けるのか。ここが書かれていないと、事故が起きる前の段階で、すでに契約書が機能していないことになります。

このページで扱うのは、次の5点です。

  1. 本人が契約者ではない構造で、同意の取得・利用目的の通知・本人からの請求の窓口を、施設と提供者のどちらに置くか。
  2. 顔の特徴などの身体の特徴を本人確認に使う機能を持つとき、そのデータを何の目的に限り、どこまで保持するか。
  3. 健康状態や心身の状況に関する情報を取り扱うときの同意の取り方と、撤回の扱い。
  4. 診断や投薬の判断をしないこと、医療機器との線引き、緊急通報の機能を持たないことの書き方と、誤判定・通信障害の責任の分け方。
  5. 契約者が公立か私立かによって、適用される個人情報保護法の規律が変わる点。

委託先としての一般的な定め(従業者の監督、再委託、漏えい通知、返却・消去)はSaaSの委託先・個人情報のページ、顧客データの帰属と統計利用の一般論は顧客データのページで扱っています。ここでは、本人が契約の外にいることから生じる論点に絞ります。なお、以下は施設向けの業務支援SaaS一般についての説明で、特定の業種に特有の許認可や報酬の制度は扱いません。個別の機能への当てはめは、機能の内容と運用の実態によって変わります。

三者の構造:本人・施設・提供者のあいだで、誰が何を負うか

施設向けSaaSのデータの流れは、本人、施設、提供者の三者で整理できます。

データの本人は契約の外にいる

本人入所者、園児、児童生徒、保護者など。利用規約の当事者ではなく、サービスの存在を知らないこともある
施設(契約者)本人から情報を取得し、利用目的を伝え、必要な同意を取る。本人からの請求を受ける窓口
提供者施設から取扱いを委ねられ、システムとして記録・表示・通知を行う。自分の目的で使うデータは別に立てる

提供者が施設の委託を受けて取り扱う範囲では、本人に対する説明と同意の主役は施設です。提供者が自分の改善や研究のために使うデータは、委託の範囲の外にあるため、別の整理が要ります。

個人情報保護法は、個人データの取扱いの全部または一部を委託する場合に、委託を受けた者が提供を受けても、委託元から見て「第三者」には当たらないとしています(27条5項1号)。そのうえで、委託元には委託先への必要かつ適切な監督が求められます(25条)。施設向けSaaSの基本形は、この委託の構造です。施設が「個人データを取り扱う事業者」で、提供者は施設の指示の範囲で取り扱う者、という整理になります。

この整理から、契約書に書くべきことが決まります。

データの種類ごとに、本人・取得する者・規約で押さえることを整理する(一般的な例)

データの例本人取得する者規約で押さえること
氏名、生年月日、居室や学級などの属性入所者・園児・児童生徒施設利用目的の特定と通知は施設。提供者は施設の指示の範囲内で取り扱う
保護者・家族・緊急連絡先の連絡先保護者・家族(利用者本人とは別の第三者)施設施設が登録する権限を持つことの表明。連絡先の持ち主は契約の外にいる
顔の特徴などを変換した符号利用者本人など施設または提供者個人識別符号に当たり得る。使う目的を限り、保持の有無と期間を書く
健康状態、通院や投薬の記録、障害に関する記述利用者本人施設要配慮個人情報に当たり得る。取得の同意は施設、提供者の二次利用は別に整理する
学習や活動、出欠の記録児童生徒学校・団体内容次第。設置主体(公立か私立か)で適用される規律が変わる
職員のアカウント、操作のログ職員提供者(自ら)提供者が自分の目的で取得する。顧客データと切り分けて書く

表の最後の行は見落とされがちです。職員のアカウント情報や操作ログは、利用対象者のデータとは別に、提供者が自らの目的(課金、不正の調査、障害の分析)で取得するものです。顧客データと同じ条項に入れると、契約終了後の削除の対象になって調査の根拠が失われます。切り分けの考え方は顧客データのページで説明しています。

本人の同意を誰が取るか:施設に負わせる書き方と、その限界

個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うにあたって利用目的をできる限り特定し(17条1項)、取得したときは、あらかじめ公表している場合を除いて、速やかに本人に通知し、または公表しなければなりません(21条1項)。本人との間で契約を締結することに伴って書面に記載された個人情報を取得する場合などは、あらかじめ本人に利用目的を明示する必要があります(同条2項)。同意が必要になる場面は、利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱うとき(18条1項)や、要配慮個人情報を取得するとき(20条2項)、第三者に提供するとき(27条1項)などです。

これらを実際に行える位置にいるのは、本人と接点を持つ施設です。そこで、契約書では、施設が本人への通知と同意の取得を行うものとし、提供者はその前提でサービスを提供する、と書くのが通常です。ただし、次の三点を書いておかないと、条項が形だけになります。

同意の分担を実際に動かすための三つの工夫

取得の主体と時期を書く

「必要な同意を取得するものとします」だけでは足りない

  • 誰が(施設の職員か、保護者か)
  • いつ(入所、入園、入学、機能の利用開始の前)
  • 何について(登録する情報の種類と、利用目的)

取得の状況を確認できる形にする

事故のあとに確認できないと、分担が機能しない

  • 同意の取得方法の概要を報告させる条項
  • 説明用の文面や画面の雛形を提供者が用意する
  • 記録の保存を施設の義務にする

提供者が自分で使う分は別に立てる

施設の同意が提供者の利用まで届くとは限らない

  • 改善、研究、学習への利用は、利用目的に含めて説明されているか
  • 含まれないなら、提供者が自ら本人の同意を取る仕組みを置く
  • それも難しいなら、その利用は行わないと決める

子ども、あるいは判断能力が低下している入所者のように、本人が同意の意味を十分に理解できない場合は、親権者などの法定代理人から同意を得る考え方が、個人情報保護委員会のガイドラインに示されています。年齢の目安などの具体的な内容は、ガイドラインの記載で確認が必要です。契約書には、年齢や状態に応じて、本人に代わって同意する人を施設が適切に判断するものとし、その判断の責任は施設が負う、と置くのが一般的です。提供者の側で一人ひとりの本人の状態を判断することはできないからです。

条文例利用対象者の個人情報の登録と同意(一般的な書き方の例)

  1. 契約者は、利用対象者に関する情報を本サービスに登録するにあたり、あらかじめ、その利用目的を利用対象者(利用対象者が同意の意味を理解できないときは、その法定代理人その他適切な者)に通知し、または公表し、法令上同意が必要な場合には、その同意を取得するものとします。
  2. 契約者は、前項の通知および同意の取得の方法の概要を記録し、当社から求められたときは、その概要を報告するものとします。
  3. 当社は、契約者から委託を受けて取り扱う利用対象者の個人データを、第○条に定める当社の自己利用の場合を除き、契約者の指示の範囲内でのみ取り扱います。
  4. 契約者が前各項に違反したことにより生じた利用対象者その他の第三者との紛争は、契約者の責任と費用において解決するものとします。

第3項の「自己利用」は、提供者が自分の目的で使うデータだけを別の条にまとめておくための仕掛けです。この条を置かずに「改善のために利用できる」とだけ書くと、委託の範囲と自己利用の区別が文面から読めなくなります。

本人からの請求は、窓口をどこに置くか

本人は、個人情報取扱事業者に対し、本人が識別される保有個人データの開示を請求できます(33条1項)。ここでいう保有個人データは、個人情報取扱事業者が、開示、内容の訂正、追加または削除、利用の停止、消去および第三者への提供の停止を行う権限を有する個人データです(16条4項)。施設から取扱いを任されているだけの提供者は、その権限を持たないのが通常で、本人からの請求の宛先は施設になります。ところが、本人は提供者のサービス名を知っていて、提供者に直接連絡してくることがあります。そこで、提供者が請求を受けたときの手順を決めておきます。

条文例利用対象者からの請求を受けたとき(一般的な書き方の例)

  1. 利用対象者またはその代理人から、当社に対し、利用対象者に関する個人データの開示、訂正、利用停止その他の請求があったときは、当社は、その旨を遅滞なく契約者に通知し、契約者の指示に従って対応します。当社は、契約者の指示なく当該請求に応じません。
  2. 契約者は、前項の請求への対応に必要な範囲で、本サービスの検索・出力その他の機能を利用し、または当社に協力を求めることができます。

請求に対応するための出力の機能が、提供者のサービスに備わっているかどうかも、契約前に確かめるべき点です。出力の機能がないSaaSでは、施設が本人からの開示請求に応じたくても、データを取り出せません。エクスポートの一般論は返還・削除のページを参照してください。

顔の特徴などの身体の特徴:個人識別符号になり得るデータを、目的を限って扱う

施設の入退室、職員や利用者の本人確認のために、顔の特徴を使う機能を持つサービスがあります。顔に限らず、指紋や声などの身体の特徴も同じです。個人情報保護法は、「特定の個人の身体の一部の特徴を電子計算機の用に供するために変換した文字、番号、記号その他の符号であって、当該特定の個人を識別することができるもの」のうち、政令で定めるものを個人識別符号とし(2条2項1号)、それが含まれる情報を個人情報としています(同条1項2号)。政令は、その一つとして、顔の骨格及び皮膚の色並びに目、鼻、口その他の顔の部位の位置及び形状によって定まる容貌を、電子計算機の用に供するために変換した符号であって、個人情報保護委員会規則で定める基準に適合するものを挙げています(個人情報の保護に関する法律施行令1条1号ロ)。

つまり、顔の特徴を変換して照合用に保存した符号は、適用される基準に合致すれば、それだけで個人情報になり得ます。氏名と結びついていなくても同じです。ここから、規約に置くべきことが決まります。

  1. 目的の限定。身体の特徴のデータを使う目的を、本人確認に限ると書く。「サービスの改善のため」の一言を足すと、目的が広がって、本人の期待を超えやすくなります。
  2. 保持の有無と期間。照合のたびに取得して、照合が終われば破棄する設計なのか、登録した符号を保持し続ける設計なのかを、規約で区別して書く。どちらかを明記しないと、本人は保持されているのかが分かりません。
  3. 再利用の禁止。本人確認以外の目的、特に学習への再利用をしない、と書く。
  4. 対象者の区別。本人確認の対象が誰かによって、同意を取る主体と通知の相手が違います。

身体特徴データの扱いの三つの設計

端末内で照合し、送信しない

提供者がデータを持たない設計

  • 提供者は個人識別符号を取得しない
  • 規約には、データは端末内で処理され提供者に送信されないと書く
  • 端末の紛失や共有端末の管理は施設の責任

提供者側で照合し、直ちに破棄する

一時的にだけ扱う設計

  • 提供者は一時的に取り扱うが、保持しない
  • 破棄の時点を書き、ログに残る情報の範囲も書く
  • 障害調査のために残すデータがあれば、その旨と期間を書く

符号を保持して照合を続ける

登録型の設計

  • 登録、更新、削除の手順と、利用終了時の削除を書く
  • 保持の目的は本人確認に限る
  • 学習その他の再利用はしないと明記する

どの設計でも、規約に書いてあることと実際の動きが一致しているかを、提供者の側が点検できる状態にしておくことが前提です。

「識別できない形に変えて学習に使う」条項の書き方

精度の向上のために、利用データを「個人が特定できない形に加工したうえで」学習に使う、という条項は、多くの規約に見られます。ただ、「特定できない形」が何を指すかが書かれていないことがほとんどです。個人情報保護法には、これに近い概念が二つあります。匿名加工情報は、特定の個人を識別できないように個人情報を加工して得られる情報で、元の個人情報を復元できないようにしたものです(2条6項)。作成には、個人情報保護委員会規則で定める基準に従う必要があり(43条1項)、作成したときは含まれる情報の項目の公表も求められます(同条3項)。仮名加工情報は、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないように加工した情報で(2条5項)、作成の基準(41条1項)や利用の制限が別に定められています。

規約の「個人を特定できない形」は、そのいずれにも当たらない、単なる削除やマスキングを指していることがあります。その場合、加工後の情報が個人情報のままであれば、18条の利用目的の制限が働きます。言い換えると、「識別できない」という言葉だけで、学習への利用が許されるわけではありません。次のように、加工の内容を書くのが堅実です。

書き方の例(一般的な例) 学習への利用の条項

加工の基準

よくある書き方「個人が特定されない形に加工したうえで、機能の改善のために利用することがあります。」
整えた書き方「当社は、利用データから氏名、生年月日、連絡先その他の記述を削除し、元の個人を識別できず、かつ復元できない状態にしたものに限り、○○の目的で分析に用います。身体の特徴に関するデータは、この分析の対象に含めません。」

理由「特定できない」の中身が書かれていないと、どの程度の加工をすれば足りるのかが、提供者の内部でもばらつきます。対象から外すデータを明示すると、本人の不安も減ります。

保持

よくある書き方「加工後のデータは、当社が保有できます。」
整えた書き方「加工前のデータは、利用終了後、第○条に従って削除します。加工後のデータは、元の個人を識別できないことを維持する限りで保有します。」

理由加工前のデータが残っていると、加工後のデータとの照合によって個人が識別されるおそれがあります。加工前のデータの削除と、加工後のデータの保有を、分けて書きます。

なお、介護保険の被保険者番号などは、政令で個人識別符号に挙げられています(施行令1条8号)。ほかにも、旅券の番号、基礎年金番号、免許証の番号、個人番号なども同じ条に挙げられています(同条2号・4号・5号・9号)。施設向けのSaaSは、利用者の保険者番号などの入力欄を持つことが多く、これらを入力する必要がない機能では、入力を求めない、あるいは入力を禁止する設計も、取扱いを減らす方法の一つです。

健康状態や心身の状況に関する情報:同意の取り方と撤回

要配慮個人情報は、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報です(2条3項)。政令は、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害があること(施行令2条1号)、医師等が行った健康診断等の結果(同条2号)、健康診断等の結果に基づき、または疾病、負傷その他の心身の変化を理由として、医師等により心身の状態の改善のための指導や診療・調剤が行われたこと(同条3号)などを挙げています。

個人情報取扱事業者は、法令に基づく場合などの例外を除き、あらかじめ本人の同意を得ないで、要配慮個人情報を取得してはなりません(20条2項)。ここでも、誰が取得する者かが問題になります。提供者が施設の委託を受けて記録を取り扱うだけであれば、取得の同意が問題になるのは、主として施設の側です。提供者が自分の目的(学習、研究、統計の作成)で取り扱うのであれば、提供者自身が取得する者として扱われる可能性があり、別に明示の同意が必要かどうかを、条文とガイドラインで確認する必要があります。

もう一つの注意は、入力した事実を同意とみなす書き方に頼らないことです。「利用者が情報を入力した場合は、必要な同意を得たものとみなす」という条項は、本人の同意の裏づけになりません。情報を入力するのは施設の職員であって、本人ではないからです。本人が同意した事実は、入力ではなく、同意を取得した記録によって裏づけられます。

書き方の例(一般的な例) 健康情報の同意と撤回

同意の扱い

よくある書き方「利用者が健康に関する情報を登録した場合、必要な同意を得たものとみなします。」
整えた書き方「契約者は、利用対象者の健康状態その他の要配慮個人情報を登録する前に、その取得と利用について、書面または電磁的方法により同意を得るものとします。同意の記録は、契約者が保存します。」

理由入力した人と本人は別人です。みなし規定では、本人の同意の裏づけになりません。取得する者と記録の保存者を書きます。

撤回

よくある書き方(定めなし)
整えた書き方「契約者は、利用対象者から同意の撤回があったときは、速やかに当社に通知します。当社は、契約者の指示に従い、当該利用対象者に係る情報の登録および利用を停止します。撤回は、撤回前に作成された、元の個人を識別できない統計情報には及びません。」

理由撤回の手順を書いておかないと、撤回の意思表示があっても、システム上は何も変わりません。撤回の効力が及ばない範囲も書いておくと、後の争いを避けられます。

一方で、すべての記録が要配慮個人情報になるわけではありません。たとえば、出欠や活動の記録そのものが、当然に要配慮個人情報に当たるとは限りません。障害に関する記述が付いていたり、診療や指導の内容が書かれていたりすると該当し得る、という程度の理解で、記録の欄に何を入力させるのかを設計する段階で確認するのが現実的です。自由記入欄は、本来想定していなかった情報が入る場所になります。入力を禁止する情報の種類を、禁止事項に書いておく方法もあります(アカウント・利用条件のページ)。

診断や投薬の判断をしない:医療機器との線引き、緊急通報、誤判定と通信障害

施設の業務を支援するSaaSが、健康や服薬、体調に関わる情報を扱うとき、サービスが「医療行為の代わり」と受け取られないようにしておく必要があります。契約書と画面の両方で、次の三点を一貫して書きます。

  1. 診断、治療、投薬の可否その他の医療上の判断を行わないこと。
  2. 表示される判定や通知は参考情報であり、最終的な確認と判断は施設(および医師その他の医療専門職)が行うこと。
  3. 緊急通報の機能を持たず、緊急時の連絡手段は、施設が別に確保すること。

医療機器については、医薬品医療機器等法が、「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等」であって政令で定めるものと定義しています(2条4項)。この「機械器具等」には、プログラムとこれを記録した記録媒体が含まれます(同条1項2号の括弧書き)。したがって、ソフトウェアも、使用目的によっては医療機器に当たり得ます。

ここで押さえておきたいのは、規約に「医療機器ではありません」と書くだけでは、該当性は決まらないという点です。条文は「目的とされている」と書いており、サービスの機能、画面の表示、説明、宣伝などから、何のために使われるものかが見られると考えるのが自然です。規約の文言と、実際の画面表示が食い違っていると、規約の一文の効果は弱くなります。たとえば、規約では「医療上の判断を行わない」と書きながら、画面では「異常あり」「服用不可」と断定的に表示するような場合です。該当性の判断の枠組みは、所管官庁(厚生労働省)の資料で確認が必要です。

機能と表示の点検(一般的な例)

機能・表示の例リスクの見方書き方・設計の例
記録の表示、通知の送信施設の業務の補助にとどまる「補助的機能であり、最終判断は施設が行う」と規約と画面の両方に書く
基準値からのずれを示す表示判定と受け取られやすい「参考情報」「確認を促す表示」と位置づけ、断定的な表現を避ける
医療上の対応を示唆する表示診断・治療に近づく表示を設計する前に、所管官庁の資料で該当性を確認する
緊急時の連絡を担うかのような表示緊急通報と受け取られる通報機能を持たないことを書き、緊急連絡は別の手段で確保させる

誤判定と通信障害は、責任の分配を具体的に書く

判定や通知の誤り、通信の障害、入力の誤り、データの未同期は、起こり得る事象です。責任の分配を、事象ごとに書いておくと、事故のあとの説明がしやすくなります。

事象ごとの責任の分け方(一般的な例)

事象提供者が書いておくこと施設が負うこと
判定や通知の誤り機能は補助的で、完全性・正確性・特定目的への適合性を保証しないこと表示のみを根拠に判断せず、最終確認を自らの責任で行うこと
通信の障害、データの未同期稼働率の保証の有無と、障害時の通知(SLAのページ)通信が途絶えたときの代替の確認手段を持つこと
入力の誤り入力内容の正確性は施設の責任であること入力の担当者の教育と、確認の手順
緊急の事態緊急通報の機能を持たないこと緊急時の連絡手段を別に確保すること

条文例補助的な機能と最終確認(一般的な書き方の例)

  1. 本サービスは、契約者が行う記録、確認および連絡の業務を補助する機能を提供するものです。本サービスは、利用対象者の診断、治療、投薬その他の医療上の判断を行うものではなく、医療専門職による判断に代わるものでもありません。
  2. 本サービスが表示する判定、通知その他の情報は、参考情報として提供されるものです。契約者は、最終的な確認および判断を、自らの責任において行うものとします。
  3. 表示内容の誤り、通信の遅延や途絶、入力の誤り、同期の遅れその他の事由により、表示内容と実際の状況に差が生じた場合であっても、前項は変わりません。ただし、当社の故意または重過失による場合は、この限りではありません。
  4. 本サービスは、緊急通報の機能を有しません。契約者は、緊急時の連絡手段を、本サービスとは別に確保するものとします。

第3項のただし書は、責任制限の一般論(故意・重過失を外す)に沿ったものです。詳しくは責任制限のページで説明しています。AIの出力を人が確認する義務の書き方は、AI機能のページと共通です。

公立か私立か:適用される規律が変わる

学校、保育園、介護施設は、設置主体が私人の法人か、地方公共団体かによって、個人情報保護法の規律が変わります。個人情報取扱事業者の定義から、国の機関、地方公共団体、独立行政法人等、地方独立行政法人は除かれています(16条2項)。これらは、「行政機関等」として、別の章(第5章、行政機関等の義務等)の規律に服します(2条11項)。地方公共団体の機関も、その一つです(同項2号)。したがって、公立の学校や、地方公共団体が直接運営する施設は第5章の規律に服し、私立の学校、民間の事業者が運営する施設は第4章(個人情報取扱事業者等の義務等)の規律に服する、という大まかな区別になります。

ただし、細かい例外があります。地方公共団体の機関が運営する病院、診療所、学校教育法1条に規定する大学の運営などは、民間の事業者と同じ扱いに近づける特例があります(58条2項)。また、運営を指定管理者に任せている公の施設の管理の業務には、安全管理措置の規定が準用されます(66条2項2号)。公立の施設かどうか、運営主体が誰かは、条文と所管官庁の資料で、一つずつ確認が必要です。

契約者の設置主体で何が変わるか(概略)

契約者適用される規律の枠規約・契約で意識すること
私立の学校・民間の保育園・民間の介護施設個人情報取扱事業者の義務(第4章)ここまでの整理が基本。同意、利用目的、委託の監督、請求の窓口
公立の学校・地方公共団体が運営する施設行政機関等の義務(第5章)。条例の定めも確認する民間向けの特約をそのまま当てはめにくい。委託を受けた者への安全管理措置の準用(66条2項1号)、従事者の義務(67条)
指定管理者が運営する公の施設管理の業務に安全管理措置の規定が準用される(66条2項2号)契約者が誰で、どの業務の委託かを契約書に明記する

公立の契約者との契約では、民間の施設向けの特約をそのまま持ち込めないことがあります。たとえば、行政機関等は、法令に基づく場合を除いて、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、または提供してはならないとされています(69条1項)。提供者が、委託を受けた範囲を超えて学習や統計に使うことを、契約で認めてもらうのは難しくなります。申込みの段階で、契約者の設置主体と所管を確認し、公立の場合は民間向けの自己利用の条項を適用しない、とするのが現実的です。

委託を受けた民間の事業者が、個人データの漏えい等の報告義務を負う場面でも、委託元が個人情報取扱事業者か行政機関等かを意識しておく必要があります。個人情報保護法26条1項のただし書は、他の個人情報取扱事業者または行政機関等から取扱いの全部または一部の委託を受けた場合に、規則で定めるところにより、その委託元に通知したときは、委託先自身の報告を要しないとしています。漏えい通知の期限の考え方は委託先・個人情報のページにあります。

契約前に確かめたいことと、起きがちなこと

ヒヤリングの問いと理由契約前に確かめておきたい問い

  1. 利用対象者は誰か。年齢層、判断能力、家族の関与はどうなっているか。

    同意を誰から、どのように取るかが決まります。子どもや、判断能力が低下した人が対象なら、法定代理人などの扱いが論点になります。

  2. 登録する情報に、身体の特徴、健康状態、障害に関する記述は含まれるか。

    個人識別符号や要配慮個人情報に当たり得る情報があれば、取得の同意、目的の限定、撤回の手順が必要です。

  3. 契約者は私立か、公立か、指定管理者か。

    適用される規律の枠が変わり、自己利用の条項が使えるかどうかも変わります。

  4. 提供者が自分の目的で使いたいデータは何か。

    委託の範囲に収まらない利用は、別に説明と同意が必要になります。使わないと決める選択肢もあります。

  5. 画面や説明に、診断、判定、緊急対応と受け取れる表現はないか。

    規約の一文より、画面の表示のほうが、目的の判断に影響します。

  6. 通信の障害や誤判定のとき、施設には代わりの確認手段があるか。

    責任の分配を書く前提です。代わりの手段がなければ、機能の位置づけを見直します。

起きがちなこと

  • 同意を施設に負わせたのに、取得の状況を確認する手段がなく、事故のときに分担が機能しない。
  • 「識別できない形に加工」と書いたまま、基準を決めず、加工前のデータが残り続ける。
  • 同意の撤回を想定せず、撤回があっても画面にデータが残る。
  • 公立の契約者に、民間向けの自己利用の条項をそのまま適用して、受け入れられない。
  • 規約では「医療上の判断を行わない」と書きながら、画面は「異常あり」「服用不可」と断定して表示する。
  • 緊急連絡の機能を持たないことを書かず、施設が通知を緊急対応と受け取る。
  • 提供者が自ら取得する職員のアカウント情報や操作ログを、利用対象者のデータと同じ条項で扱う。

書面を整えるときの確認事項

  • 契約者、利用対象者、提供者の三者の関係と、取得・通知・同意・請求の窓口の分担を書いたか。
  • 提供者の自己利用を、委託の範囲とは別の条にまとめたか。
  • 身体の特徴に関するデータの目的、保持、再利用を、機能の動きと合わせて書いたか。
  • 要配慮個人情報に当たり得る情報の同意と、撤回の手順を書いたか。
  • 医療上の判断をしないこと、最終判断者、緊急通報の機能がないことを、規約と画面の両方に書いたか。
  • 契約者の設置主体を申込時に確認し、公立の場合の取扱いを決めたか。

料金や責任の上限は料金設計と責任制限の各ページ、契約書類の優先関係は契約の組み立てのページで説明しています。通報窓口の仕組みを提供するSaaSの論点は、別のページ(内部通報窓口SaaSの利用規約)で扱っています。

よくあるご質問

施設向けのSaaSで、入所者や園児の同意は誰が取るのですか。

契約者である施設が取る、と書くのが一般的です。本人と接点を持つのは施設で、利用目的の通知(個人情報保護法21条)も施設が行う位置にあるためです。提供者が施設の委託を受けて取り扱うだけであれば、委託を受けた者への提供は、委託元から見て第三者提供に当たりません(27条5項1号)。一方、提供者が改善や研究など自分の目的で使うデータは、委託の範囲の外です。その分は、利用目的に含めて説明し、必要なら別に同意を得る仕組みを置くか、その利用自体を行わないと決めます。

顔の特徴を照合に使う機能のデータは、個人情報になりますか。

顔の骨格や皮膚の色、目・鼻・口などの位置や形状によって定まる容貌を、電子計算機の用に供するために変換した符号で、個人情報保護委員会規則で定める基準に適合するものは、個人識別符号とされています(個人情報保護法2条2項1号、施行令1条1号ロ)。個人識別符号を含む情報は個人情報です(同法2条1項2号)。そのため、使う目的を本人確認に限る、保持の有無と期間を書く、学習などへ再利用しない、といった定めを置くのが堅実です。符号がこの基準に当たるかどうかは、符号の作り方によるため、規則の基準と所管官庁の資料で確認が必要です。

健康状態や服薬の記録を扱うときは、必ず同意が必要ですか。

病歴や、障害があること、医師等による診療や調剤が行われたことなどは、要配慮個人情報に当たり得ます(個人情報保護法2条3項、施行令2条)。要配慮個人情報は、法令に基づく場合などの例外を除いて、あらかじめ本人の同意を得ずに取得してはなりません(20条2項)。誰が取得する者かは、提供者が委託を受けて記録するだけか、自分の目的でも使うかで変わります。入力した事実を同意とみなす条項に頼らず、同意を取る者、記録の保存者、撤回の手順を書いておくのが一般的です。

個人が特定できない形に加工すれば、学習に自由に使えますか。

「特定できない形」という言葉だけでは足りません。個人情報保護法には、特定の個人を識別できず、かつ復元できないようにした匿名加工情報(2条6項、作成の基準は43条1項)と、他の情報と照合しない限り識別できない仮名加工情報(2条5項)があり、規約の「加工」がそのどちらに当たるのか、どちらにも当たらないのかで扱いが変わります。どちらにも当たらず、加工後も個人情報であれば、利用目的の範囲を超えた取扱いは制限されます(18条1項)。加工の内容、対象から外すデータ、加工前のデータの削除を書くのが堅実です。

規約に「医療機器ではありません」と書けば足りますか。

それだけでは足りません。医薬品医療機器等法は、医療機器を、疾病の診断、治療もしくは予防に使用されること、または身体の構造もしくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等で政令で定めるものとし、機械器具等にはプログラムが含まれます(同法2条4項、1項2号)。「目的とされている」かどうかは、機能、画面の表示、説明などから見られると考えられるため、規約の一文より、実際の機能と表示の設計が重要です。診断や投薬の判断をしないこと、最終判断は施設が行うこと、緊急通報の機能がないことを、規約と画面の両方に一貫して書き、該当性は所管官庁の資料で確認します。

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