このページの要点
- 体制整備の義務(公益通報者保護法11条)は事業者のもの。提供者が担う範囲と担わない範囲を、規約で書き分ける。
- 通報者を特定させる情報は、提供者の従業員のアクセスを原則禁止し、例外の手順とログを書く。契約者の管理者の権限設計も確認する。
- 匿名化・統計化した通報データの二次利用は、内容を含まない集計に限る設計が堅実。学習に使うかどうかも書いておく。
- 受付ができない障害、無料期間の当然終了による窓口の閉鎖、調査中の案件がある状態での契約終了は、窓口に固有のリスクとして規約で手当てする。
結論:窓口SaaSは「通報を受け付ける道具」。法が事業者に課す体制整備を、提供者が代わりに引き受けるわけではない
内部通報の窓口を、クラウドのシステムとして提供するサービスがあります。通報フォームを用意し、通報の内容と、通報者とのやり取りを記録し、担当者に通知する仕組みです。人が受付や一次対応を行う外部の窓口サービスと組み合わせて提供されることもあります。こうしたサービスの利用規約は、通常のSaaSの規約と比べて、通報者を守る仕組みを、契約でどこまで約束するかが中心になります。通報者の氏名や、通報の内容が、通報の対象となった側に漏れれば、通報者は不利益を受けるだけでなく、窓口そのものが信頼を失うからです。
最初に押さえておきたいのは、公益通報者保護法が体制整備の義務を課している相手は、「事業者」であり、窓口のシステムを提供する者ではないという点です。窓口SaaSの提供者が担えるのは、事業者が義務を果たすための道具の部分です。この線引きを規約で曖昧にすると、事業者側は「システムを入れたから体制は整った」と考え、提供者側は「法的な責任は事業者にある」と考えて、通報が来たときにどちらも動けないという事態になり得ます。
このページでは、次の6点を順に説明します。
- 事業者の体制整備の義務と、提供者が担う範囲・担わない範囲の書き分け。
- 通報者を特定させる情報の秘匿と、提供者の従業員がアクセスできる場面の限定。
- 匿名化・統計化した通報データを、提供者が自分の目的で使う場合の条件。
- 通報の内容の真偽、不正な通報、大量の投稿、受付ができなくなる障害の扱い。
- 契約終了や無料期間の終了のとき、通報データと窓口がどうなるか。
- 約款として整える場合の位置づけ、優先順位、変更の定め。
委託先としての個人情報の一般的な定めは委託先・個人情報のページ、責任の上限の考え方は責任制限のページ、契約終了時のデータの扱いの一般論は返還・削除のページで扱っています。ここでは、通報窓口に固有の部分に絞ります。以下は一般的な情報で、条文は現行のものを基にしています。公益通報者保護法は、令和7年(2025年)6月11日に改正法が公布され、2026年12月1日に施行される予定です(e-Gov法令検索の改正履歴による)。本稿は現行(2026年10月時点で施行されている)条文によっており、改正後の内容は、条文と所管官庁(消費者庁)の資料で確認が必要です。
体制整備の義務は事業者のもの。提供者が担う範囲を書き分ける
公益通報者保護法11条は、事業者に次の二つを求めています。第一に、公益通報を受け、通報の対象となる事実の調査をし、その是正に必要な措置をとる業務(公益通報対応業務)に従事する者を定めること(1項)。第二に、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により法令の遵守を図るため、公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとること(2項)です。ただし、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については、いずれも「定めるように努めなければならない」「とるように努めなければならない」と、努力義務になります(3項)。内閣総理大臣は、事業者がとるべき措置について、指針を定めることとされています(4項)。また、内閣総理大臣は、必要があると認めるときは、事業者に対して報告を求め、または助言、指導もしくは勧告をすることができ(15条)、勧告に従わなかった場合は、その旨を公表することができます(16条)。
これらの義務の主語は、すべて「事業者」です。窓口SaaSの契約者である事業者は、システムを導入しただけでは義務を果たしたことになりません。誰を従事者に定めるか、通報を受けてどう調査し、是正するか、通報者に不利益な取扱いをしないよう、どう周知し、徹底するか。これらは事業者が決めることです。指針や、その解説に書かれている具体的な措置の内容は、消費者庁の資料で確認が必要です。
事業者が担うこと、提供者が担うこと(一般的な整理)
| 項目 | 事業者(契約者) | 提供者 |
|---|---|---|
| 窓口の設置と周知 | 窓口を設け、役職員や取引先に周知する | 通報フォームと受付の機能を提供する |
| 従事者を定めること | 公益通報対応業務従事者を定める(11条1項) | 契約者が定める従事者に、アカウントと権限を付与する機能を提供する |
| 調査と是正 | 通報の内容を調査し、是正に必要な措置をとる | 調査の結果や是正の内容を保証しない。記録と連絡の機能を提供する |
| 通報者の保護 | 不利益な取扱いをしない(公益通報者保護法の各条) | 通報者を特定させる情報を保護する仕組みを提供する |
| 通報の記録 | 記録の保存の要否と期間を決める | 契約期間中の保管と、終了後の取扱いを定める |
表のとおり、提供者が引き受けるのは、機能と情報の保護です。規約には、事業者が公益通報者保護法その他の法令に基づく義務を、自らの責任で履行すること、提供者は通報の内容の真偽、調査の結果、事業者の対応の結果について責任を負わないこと、を明記します。これは提供者を守るための条項であると同時に、事業者に「体制整備は自分の仕事だ」と認識させる効果があります。
三者の関係と、通報者を特定させる情報の動き
人が受付・一次対応を行う外部窓口サービスでは、提供者の担当者が通報の内容を読みます。その場合は、提供者の担当者が従事者に当たるのか、事業者への報告で通報者の氏名を伝えてよいのかを、契約で別に定める必要があります。
人が受付を行う外部窓口サービスについては、提供者側の担当者を、事業者が定める従事者として扱う必要があるのかなど、指針と、その解説に沿った整理が必要です。ここで、確認が必要な事項を挙げておきます。
- 外部の担当者が通報を受ける場合に、事業者の従事者として定める手続(誰が、どの形式で定めるか)。
- 通報者の氏名その他の通報者を特定させる情報を、事業者に伝えるかどうかの判断と、通報者の同意の取り方。
- 外部窓口の担当者に対する守秘義務の課し方と、退職後も続く義務。
- 是正のための調査を、外部窓口と事業者のどちらが行うか。
通報者を特定させる情報の秘匿:アクセスできる人を、契約で限る
公益通報者保護法12条は、公益通報対応業務従事者または従事者であった者が、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない、と定めています。違反した場合には罰則があります(21条)。この義務を負うのは、事業者が従事者として定めた者です。窓口SaaSの提供者の従業員が、この従事者に当たるかどうかは、事業者がどのように定めるかによります。そのため、提供者の従業員に対する守秘は、法律上の義務に頼らず、契約で別に定めておく必要があります。
規約で定めるべきことは、次のとおりです。
- 「通報者を特定させる情報」の定義。氏名や連絡先だけでなく、通報の内容から本人が推測される記述、添付ファイルの作成者情報、通信の記録(IPアドレス、端末の情報)も含めるかを決める。
- 提供者の従業員のアクセスの原則禁止と、例外の限定。障害の調査や、契約者の依頼があった場合など、必要最小限の場面に限り、アクセスする場合の手順とログの記録を書く。
- 従業員と委託先への守秘義務の課し方。退職後も続くこと、クラウド基盤などの委託先にも同等の義務を課すこと。
- 匿名での通報の扱い。匿名の通報であっても、通信の記録から通報者が推測されることがあるため、記録を残さない設定や、記録の保存期間を書く。
条文例通報者を特定させる情報の保護(一般的な書き方の例)
- 当社は、通報者を特定させる情報(氏名、連絡先、通報の内容から通報者が推測される記述、添付ファイルに含まれる作成者の情報、通信の記録その他当社が定めるものをいいます。)を、契約者が定める公益通報対応業務従事者以外の者に開示しません。
- 当社の役員および従業員は、前項の情報にアクセスしてはなりません。ただし、障害の調査その他本サービスの提供に必要不可欠な場合に限り、当社が定める責任者の承認を得て、必要最小限の範囲でアクセスすることができます。この場合、当社は、アクセスの日時、担当者および目的を記録し、契約者から求められたときは報告します。
- 当社は、前項のアクセスを行う者に対し、本条と同等の守秘義務を、その職を退いた後も含めて課します。当社が本サービスの提供のために委託する者についても同様とします。
第2項のただし書は、障害の調査で内容を見る必要がある場面を想定しています。実際には、内容を見なくて済む設計(暗号化、閲覧権限の分離)を前提に、例外を最小限にします。
契約者の側の設定も、規約に書く
通報者を特定させる情報が漏れる原因は、提供者の側だけにあるわけではありません。実際には、契約者の管理者の権限設計のほうが大きな問題になることがあります。たとえば、通報の対象者や、その上司が、窓口の管理者を兼ねていて、通報の内容を閲覧できる場合です。窓口の機能が正しく動いていても、事業者側の運用で通報者が特定されることになります。そこで、規約には、契約者の義務として、次のようなことを書いておく方法があります(アカウント・利用条件のページも参照)。
- 閲覧できる者を、従事者として定めた者に限り、通報の対象者となる可能性のある者に権限を与えないこと。
- 通報の対象が、窓口の担当者や管理者自身に及ぶ場合の、閲覧権限の外し方を契約者が整備しておくこと。
- 通報者を探索する行為、通報を理由として通報者に不利益な取扱いをする行為を行わないこと。
- アカウントの共有をしないこと、退職した担当者のアカウントを速やかに停止すること。
通報を理由とする不利益な取扱いは、公益通報者保護法が禁止しています。たとえば、労働者である公益通報者が、同法3条各号に定める公益通報をしたことを理由とする解雇は無効とされ(3条)、事業者は、その使用していた公益通報者に対して、降格、減給、退職金の不支給その他の不利益な取扱いをしてはなりません(5条1項)。契約書に同じ内容を書き写す必要はありませんが、契約者の義務として、窓口の利用が不利益な取扱いに使われないことを書いておくと、提供者が、不適切な利用を理由に利用を停止できる根拠になります。
通報者本人が、事業者に対して、自分に関する個人データの開示を求めることもあります(個人情報保護法33条)。開示を受ける側の事業者は、通報者以外の第三者の権利利益を害するおそれがある場合などは、その全部または一部を開示しないことができます(同条2項1号)。提供者が、本人から直接請求を受けたときの手順(契約者に通知して指示に従う)は、規約に書いておきます。
匿名化・統計化した通報データを、提供者が使う条件
窓口SaaSの規約には、「通報データを匿名化および統計化したうえで、サービスの改善、機能開発、広報などに利用できる」という条項が置かれることがあります。他のSaaSでは、統計利用は一般的な条項ですが、通報データについては、いくつかの理由から、慎重な設計が必要です。
- 通報データには、通報者の個人情報のほかに、通報の対象とされた者、第三者の個人情報が含まれます。
- 通報の内容は、事業者の不正に関する情報であり、事業者の機密でもあります。
- 小規模な組織では、内容を伏せて集計しても、事業者や通報者が推測されることがあります。
- 通報者は、自分の通報が提供者の目的に使われることを、ふつうは想定していません。
個人情報保護法の整理も、通常のSaaSより重くなります。通報者がフォームに入力した情報を取得するのは、事業者です。事業者は、取得したときに利用目的を通知または公表する必要があり(21条1項)、利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱うには、本人の同意が要ります(18条1項)。提供者が自分の改善や広報のために通報データを使うのは、事業者の委託の範囲を超えるおそれがあり、その分は、提供者が自ら取得し利用するものとして、通報者に説明される必要が出てきます。通報者に見える画面(通報フォーム)に、利用目的として表示されているかどうかが、実務上の分かれ目になります。
通報データの二次利用の三つの設計
利用しない
通報の内容は一切、提供者の目的に使わない
- リスクが最も小さい。通報者への説明も簡単
- 利用状況(件数、処理時間など)は、内容を含まない形で別に取得する
- 改善は、契約者からの任意のフィードバックに依拠する
内容を含まない集計だけ
件数、処理時間、機能の利用状況など
- 通報の本文、添付ファイル、通報者の情報は一切含めない
- 集計の粒度を、契約者や通報者が推測されない程度に粗くする
- 広報には、この集計の範囲しか使わない
加工した内容を分析する
内容に基づく分析を認める
- 加工の基準と、対象から外す情報を書く
- 通報者に見える画面での説明と、拒否できる仕組みを置く
- 学習への利用は、別の条にして、契約者の事前の同意を求める
三つのうち、どれを選ぶかは、提供者の事業の内容によります。通報データの本文に基づく分析は、事業者の機密にも関わるため、契約者の承諾を要件にする設計もあります。
「匿名化」「統計化」の語の整理も必要です。個人情報保護法の匿名加工情報は、特定の個人を識別できず、元の個人情報を復元できないようにしたものを指し(2条6項)、作成するときは、個人情報保護委員会規則の基準に従う必要があります(43条1項)。規約でいう「統計化した情報」は、個人に関する情報ではない集計値(件数、割合)を指しているのか、個人情報を加工したものを指しているのかを区別して書かないと、利用が許される範囲が読めません。
書き方の例(一般的な例) 通報データの二次利用の条項
利用の範囲
理由「匿名化」の言葉だけでは、通報の本文に基づく利用が許されるかどうかが分かりません。内容を含まない集計と、内容を含む分析を分けて書きます。
学習への利用
理由学習への利用の有無を書いておかないと、契約者の法務の確認で問われることが多くあります。使わないと書けるなら、それが最も明確です。AI機能の考え方はAI機能のページも参照してください。
通報の内容の真偽、不正な通報、大量の投稿、受付の障害
窓口SaaSが直面するリスクは、通報者を守ることだけではありません。窓口を巡る典型的な争いは、次のようなものです。
窓口に固有の争点と、規約での対応(一般的な例)
| 争点 | 起こること | 規約での対応 |
|---|---|---|
| 通報の内容の真偽 | 通報が事実と異なり、対象とされた者が損害を受ける | 提供者は通報の内容の真偽、適法性、調査の結果に責任を負わない。判断は契約者が行う |
| 不正な目的の通報 | 個人的な中傷や嫌がらせに窓口が使われる | 公益通報は、不正の目的でない通報が保護の対象(公益通報者保護法2条1項)。選別は契約者が行い、提供者は内容を審査しない |
| 大量の投稿、過度な負荷 | 窓口が投稿で埋まり、必要な通報が届かない | 技術的な負荷対策は提供者が行う。内容に基づく削除は契約者の権限 |
| 通報が届かない障害 | 受付通知が不達で、通報があったことに気づかない | 障害時の通知、到達の確認機能、責任制限の例外の検討(下記) |
公益通報者保護法は、「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく」行われる通報を公益通報と定義しています(2条1項)。通報の対象となる事実も、同法と別表に掲げる法律に規定する罪の犯罪行為の事実や、過料の理由とされている事実などに限られています(同条3項)。しかし、窓口SaaSの提供者が、受け付けた通報について、公益通報に当たるかどうかを判断する立場にはありません。規約では、提供者は通報の内容に基づく選別や削除を行わないことを前提に、通報の内容の真偽、適法性、公益通報に当たるかどうかの判断を、契約者の責任とします。
もう一つの論点は、通報の内容に違法なものが含まれる場合の扱いです。たとえば、特定の個人を誹謗するだけの内容や、第三者の秘密を大量に含む添付ファイルが投稿されたとき、提供者は何ができるのでしょうか。提供者が内容に基づく削除を行うと、窓口の中立性を損ないます。一方で、何もできないと、提供者自身が違法な情報の保管に関与することになります。規約では、提供者による内容に基づく削除は、法令に基づく要請があった場合など限られた場面のみとし、その場合も契約者に通知する、と書く設計があります。技術的な負荷対策(短時間の大量の投稿の制限など)は、内容に基づかないものとして、提供者が行えるように分けておきます。
受付ができなくなる障害は、窓口の本質に関わる
通常のSaaSでは、障害は業務の遅れを意味しますが、窓口SaaSでは、通報の受付がされない、受付の通知が届かないことが、事業者の体制整備の信頼性に直結します。通報が行われたのに、担当者が知らないまま放置されれば、通報者の不利益につながり得ます。そのため、稼働率の目標だけでなく、次のことを規約に書くことを検討します(SLAを約束しない場合の設計はSLAのページ)。
- 受付通知(メールなど)の不達に備え、管理画面で未確認の通報を一覧できる機能と、契約者が定期的に確認する義務。
- 障害が生じたときの、提供者から契約者への通知の方法と時期。
- 障害により受付ができなかった場合に、通報者へ別の連絡手段(電話など)を案内する責任は契約者にあること。
- 責任の上限(責任制限のページ)を置く場合でも、通報者を特定させる情報の漏えいについては、上限の設計を別に検討すること。
契約終了と無料期間の終了:通報データと窓口が、どうなるか
窓口SaaSの終了は、通常のSaaSの終了より影響が大きくなります。通報の調査が続いている最中に契約が終了したら、事業者は調査の記録を失い、通報者は連絡の手段を失います。次の点を、規約に書いておきます。
- 削除の期限と、取得の機会。契約終了後の一定の日数は保管し、その間に契約者が通報データを取得できる。期間を過ぎたら、復元できない方法で削除する。
- 例外の限定。法令に基づく保存、紛争の対応、公的機関からの要請に限る。バックアップの扱いは順次消去とし、その期間を書く。
- 通報者を特定させる情報の優先的な削除。契約終了後に、通報者を特定させる情報だけを先に削除する運用が考えられる。
- 進行中の案件の扱い。調査が続いている通報がある場合に、契約終了の前に契約者に通知する。窓口が閉鎖されることを、通報者に案内する方法も決める。
個人情報保護法22条は、個人データを利用する必要がなくなったときは、遅滞なく消去するよう努めなければならない、としています。事業者が通報データの保存期間を決める場合の考え方は、指針や、その解説で確認が必要です。提供者の規約は、事業者が決めた保存期間の範囲で契約が終了するまで保管し、終了後は事業者の指示に従う、という書き方が基本になります。削除と返還の一般論は返還・削除のページ、期間と解約の一般論は期間・解約のページにあります。
無料期間が当然に終了する設計の落とし穴
無料期間のあとに自動で有料へ移さず、合意がなければ契約を終える設計は、顧客に受け入れられやすい形としてPoC・トライアルのページで説明しています。窓口SaaSでこの設計をとるときに加わる論点は、無料期間の終了が、窓口の閉鎖を意味することです。契約が終われば、通報フォームが使えなくなり、通報データの取得の期間が始まります。契約者が気づかないまま無料期間が終わると、窓口が突然閉まり、通報者が通報できなくなります。事業者は、窓口を設けているつもりでいても、実際には窓口がない状態になります。
条文例無料期間の終了と窓口の閉鎖(一般的な書き方の例)
- 当社は、無料期間の終了日の○日前までに、契約者に対し、無料期間が終了することおよび終了により本サービスの利用ができなくなることを、書面または電子メールで通知します。
- 無料期間の終了日までに有償の利用への移行について合意が成立しない場合、本契約は同日をもって終了します。
- 前項により本契約が終了する場合、当社は、終了日から○日間は、契約者が通報データを取得するために、管理画面へのログインを認めます。通報フォームは、終了日をもって停止します。
第1項の事前通知は、必須ではありませんが、窓口の閉鎖を契約者に気づかせる役割を果たします。通知の期間は、契約者が代わりの窓口を準備するのに足りる日数にします。
約款として整えるとき:位置づけ、優先順位、変更の定め
法人向けの窓口SaaSの規約を、「約款」として整えることがあります。定型約款に当たるかどうかは、名前ではなく中身で決まり(民法548条の2第1項)、申込書で個別の条件を合意する取引では、約款と呼んでいても当たらない場合があります。判定の一般論と、変更の要件(同法548条の4)は契約の組み立てのページと料金改定のページで説明しています。窓口SaaSでは、変更の周知を民法548条の4第2項が求める最低限にとどめず、とくに次の点を手当てします。
- 秘匿に関する条項は、関連規定の変更の対象から外す。通報者を特定させる情報の保護、アクセスの制限などの条項を、約款の本文に置き、ガイドラインなどの関連規定の改定で緩められないようにする。
- 変更の通知の期間を長めにする。契約者が内容を点検し、代わりの窓口を準備するのに足りる期間を置く。
- 変更に同意しない場合の解約の機会を置く。契約者は、変更後の規約に同意しないとき、違約金などを負わずに解約できる。
- 申込書の個別条件との優先順位を書く。申込書の個別条件を最優先とし、その優先は当該契約に限る、と置く。
契約書類の優先順位の基本形(上ほど優先)
- 申込書の個別条件契約者ごとに決まる事項。優先は当該契約に限る
- 約款(本文)秘匿、アクセス、データの取扱い、終了など、全契約者に共通の権利義務
- 関連規定(料金表、ガイドライン、操作マニュアル)変更の頻度が高い事項。秘匿に関する条項を変更する力は持たせない
書類の優先関係の考え方の全体は、契約の組み立てのページにあります。
契約前に確かめたいことと、起きがちなこと
ヒヤリングの問いと理由契約前に確かめておきたい問い
事業者は常時使用する労働者が300人を超えるか、以下か。
11条の義務が法的義務か努力義務かで、窓口に求める水準と、契約者の関心が変わります。
通報の受付と一次対応を、人が行うのか、システムだけか。
人が行う場合は、提供者の担当者の守秘、従事者の定め、報告の範囲が論点になります。
通報者を特定させる情報に、誰がアクセスできる設計か。
提供者の従業員、契約者の管理者、調査の担当者のそれぞれについて、権限を決めます。
提供者が通報データを自分の目的で使うか。
使うなら、内容を含まない集計に限るか、通報者への説明を置くかを決めます。使わないと書けるなら、それが最も明確です。
契約終了や無料期間の終了のとき、進行中の通報はどうなるか。
窓口の閉鎖と調査の継続の両方に関わります。
受付ができない障害が起きたとき、契約者はどう気づくか。
通知の不達に備えた確認機能と、責任の分配を決めます。
起きがちなこと
- システムを導入しただけで体制が整ったと考え、従事者の指定や調査の手順が決まっていない。
- 窓口の管理者に、通報の対象となり得る者が含まれていて、通報者が推測される。
- 「匿名化して統計に利用できる」とだけ書かれ、通報の本文に基づく利用まで許されるのか分からない。
- 障害で受付の通知が届かず、通報があったことに誰も気づかない。
- 無料期間が当然に終了して窓口が閉まり、事業者は窓口がない状態になる。
- 契約終了の際に、調査が続いている案件の記録の引渡しが決まっていない。
- 関連規定の改定で、秘匿に関する取扱いが緩められる余地が残っている。
書面を整えるときの確認事項
- 事業者が自らの責任で法令上の義務を履行することと、提供者が通報の内容の真偽や調査の結果に責任を負わないことを書いたか。
- 通報者を特定させる情報の定義と、アクセスできる者の限定、例外の手順、ログの記録を書いたか。
- 契約者の管理者の権限設計と、通報者を探索しない義務を書いたか。
- 通報データの二次利用の範囲(利用しない、内容を含まない集計に限る、など)と、学習への利用の有無を書いたか。
- 不達や障害への備えと、窓口が止まったときの責任の分け方を書いたか。
- 終了時の削除の期限、例外、進行中の案件の扱い、無料期間の終了と窓口の閉鎖の事前通知を書いたか。
個人情報を扱うSaaSの契約の全体は委託先・個人情報のページ、施設向けSaaSの本人の同意の考え方は介護施設・保育園・学校向けSaaSの利用者データのページで扱っています。
よくあるご質問
内部通報の窓口SaaSを導入すれば、公益通報者保護法の体制整備の義務を果たしたことになりますか。
なりません。公益通報者保護法11条が体制の整備その他の措置を求めている相手は事業者であり、窓口のシステムの提供者ではありません。事業者は、公益通報対応業務従事者を定め(1項)、公益通報に応じ適切に対応するために必要な体制を整備しなければなりません(2項)。常時使用する労働者が300人以下の事業者は努力義務です(3項)。システムはそのための道具にとどまります。具体的な措置の内容は、同条4項の指針とその解説で、消費者庁の資料により確認が必要です。
窓口SaaSの提供者の従業員は、通報者を特定させる情報を見てもよいのですか。
原則として見ない設計が基本です。公益通報者保護法12条は、公益通報対応業務従事者や従事者であった者に、通報者を特定させる事項を正当な理由なく漏らしてはならない義務を課しており(違反には21条の罰則)、この義務を負うのは事業者が従事者として定めた者です。提供者の従業員が従事者に当たるかは事業者の定め方によるため、契約で、アクセスの原則禁止、障害の調査など必要不可欠な場合の例外、ログの記録、退職後も続く守秘義務を別に定めておきます。
匿名化した通報データを、提供者が改善や広報に使ってもよいですか。
使える範囲は、設計次第です。通報データには、通報者、対象者、第三者の個人情報と、事業者の機密が含まれます。個人情報の取得者は事業者であり、利用目的の範囲を超える取扱いには本人の同意が必要です(個人情報保護法18条1項)。件数や処理時間など、通報の本文や個人に関する情報を含まない集計値に限る設計が堅実で、通報の本文に基づく分析は、契約者の承諾を要件にするか、行わないと書く方法があります。匿名加工情報(同法2条6項)に当たるかどうかも、規約の表現と実際の加工で区別して確認します。
契約が終了したとき、通報データはどうなりますか。
規約で決めておく必要があります。基本形は、終了後の一定の日数は保管して契約者が取得できるようにし、その後に復元できない方法で削除する、というものです。例外は、法令に基づく保存、紛争の対応、公的機関からの要請に限り、バックアップは順次消去とします。通報データの保存の要否と期間は事業者が決めることであり、考え方は指針の解説で確認が必要です。調査が続いている案件がある場合の通知と、通報者への窓口閉鎖の案内も、あわせて書きます。
無料期間が終わったとき、課金の合意がなければ契約が終わる設計で、何に注意すればよいですか。
窓口SaaSでは、契約の終了が窓口の閉鎖を意味します。通報フォームが停止し、通報者は通報できなくなり、事業者は窓口がない状態になります。無料期間の終了の前に、終了することと、終了により利用できなくなることを、契約者に通知する条項を置きます。通知の日数は、契約者が代わりの窓口を準備できる程度にします。終了後は、通報データの取得の機会を認め、通報者を特定させる情報の扱いも書いておきます。
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