このページの要点
- 店舗用・会員用・単独利用者用の三つに規約を分け、会員用は店舗の名義で、提供者はひな形と表示の仕組みを提供する。
- 会員の支払が提供者を経由する設計は、資金決済法2条の2の確認が済むまで避け、損失の求償と決済機能の停止の権限を規約に置く。
- プライバシーポリシーは店舗の名義で公開させ、採用の確認と更新の通知を仕組みにする。
- 会員の持病や服薬は、入力したら同意したとみなす、では足りない。明示の同意か、入力させない設計を選ぶ。
結論:規約は三つに分け、決済は二層で考え、プライバシーポリシーの名義は店舗にする
店舗が自分のお客様(会員)の予約や会費を管理するために使うSaaSは、契約の当事者が三組できます。提供者と店舗の利用契約、店舗と会員の会員契約、そして店舗を介さずにアプリを使う個人(単独利用者)と提供者の利用契約です。法人向けのSaaSの規約を一本作って終わり、という整理がきかない理由は、会員という個人の消費者が加わることにあります。
最初に決めておくことは三つあります。どの規約を誰の名義で出すか。お金が誰から誰へ流れ、決済が止まったり取り消されたりしたときの損失を誰が負うか。会員の個人情報について、個人情報取扱事業者としての義務を誰が負うか。この三つが決まっていないと、規約の条文を整えても、店舗・会員・提供者の三者が互いに責任を押し付け合う構造が残ります。
- 店舗用・会員用・単独利用者用の三つの規約に分ける。会員用は店舗の名義で、提供者はひな形と表示の仕組みを提供する側に回る。
- 提供者が受け取るのは店舗からの利用料と手数料に絞り、会員が店舗に支払う会費や予約代金を提供者がいったん預かる設計は、資金決済法の確認が済むまで避ける。
- 決済事業者の審査・停止・チャージバック(カード利用者が支払に異議を述べ、売上が取り消されること)による損失は、店舗への求償と決済機能の停止の権限を規約に書いて割り振る。
- プライバシーポリシーは、会員の情報を取得する店舗の名義で公開させる。提供者はひな形を出し、採用の確認と更新の通知までを仕組みにする。
- 会員の持病や服薬などは要配慮個人情報にあたり得る。「入力したら同意したとみなす」では足りないので、明示の同意の画面か、入力させない設計を選ぶ。
このページは、店舗が契約者になり、その会員が個人であるSaaSに絞って説明します。法人向けのSaaSに個人事業主が混じる場合の整理は契約の組み立て、提供者が会員の情報を預かる立場の一般論は委託先と個人情報のページで扱っています。
規約を三つに分ける:誰が誰と契約し、誰の名義で出すか
予約・会員管理のSaaSでは、画面を操作する人は三種類います。店舗の経営者やスタッフ、店舗の会員、そして店舗に属さずにアプリを使う個人です。この三者それぞれに、提供者が当事者になる契約と、提供者が当事者にならない契約が混ざります。
三つの契約の関係(予約・会員管理SaaSの例)
別に、店舗に属さない単独利用者は、提供者と直接、アプリの利用契約を結びます。
三つの規約の当事者・名義・書くこと
| 規約 | 当事者と名義 | 主に書くこと | 書かないこと |
|---|---|---|---|
| 店舗向けの利用規約 | 提供者と店舗。提供者の名義 | 利用料と手数料、店舗の表明(事業者であること)、会員規約を店舗が用意する義務、会員への対応の責任、決済の損失の割り振り、データの扱い | 会員の会費やキャンセルの条件そのもの |
| 会員向けの規約(会員規約) | 店舗と会員。店舗の名義 | 会費、予約とキャンセル、店舗の施設やサービスの利用条件、店舗の責任の範囲、会員の情報の取扱い | 提供者の機能の仕様を店舗の約束のように書くこと |
| アプリ単独利用者向けの規約 | 提供者と単独利用者。提供者の名義 | アプリの利用条件、禁止事項、提供者の責任、決済があるときの条件、提供者自身のプライバシーポリシー | 特定の店舗との会員契約の内容 |
表の中でいちばん誤りやすいのは、会員向けの規約です。会員が店舗に払う会費や予約代金、キャンセルの扱いは、店舗と会員の契約の内容です。提供者の名義で「会員規約」を出して会費やキャンセルを書いてしまうと、提供者が会員に対する契約上の責任を負うように読まれます。会員用の規約は、提供者がひな形を提供しても、店舗が自らの名義で採用して会員に示す形にします。
民法の定型約款の規定では、不特定多数を相手に画一的な取引を行うときの規約を準備した者を「定型約款準備者」と呼びます(民法548条の2第1項)。会員規約を会員に示して契約する店舗は、この準備者にあたります。会員が個人で、店舗が事業者であれば、消費者契約法も働きます。事業者の債務不履行による損害賠償責任を全部免除する条項は無効とされ(消費者契約法8条1項1号)、キャンセル料などの違約金は、同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分が無効とされます(同法9条1項1号)。ひな形に免責やキャンセル料の条項を広く入れておくと、店舗がそのまま採用した条項が無効と判断される危険が、店舗と会員の間に生じます。
条文例店舗向け規約:会員規約に関する定め(書き方の例)
- 店舗は、会員に対して本サービスを利用させるにあたり、自己の名義で会員規約を会員に示し、会員の同意を得るものとします。
- 当社は、会員規約のひな形を提供することがありますが、その内容が店舗の事業に適合することを保証しません。店舗は、自己の責任でひな形の内容を確認し、必要な修正を行ったうえで使用するものとします。
- 会員規約の内容が法令に反し、または本サービスの機能の仕様と合致しないときは、店舗は、速やかにこれを改めるものとします。
- 店舗は、会員との間の契約および紛争について、自己の責任と費用で対応するものとします。当社の責めに帰すべき事由による場合を除き、当社は、店舗と会員の間の契約の当事者ではなく、その履行について責任を負いません。
会員が見る画面に「この店舗の会員規約」と「アプリの利用規約」の二つが並ぶときは、登録時に二つの同意を取り、どちらの規約がどの事項を決めるかを、各規約の冒頭に書いておきます。
会員用の規約とアプリの利用規約が食い違わないようにするため、次のように役割を分けておく方法があります。会費・予約・キャンセル・施設の利用条件は会員規約が決め、アプリの動作・禁止事項・提供者の責任はアプリの利用規約が決める、と各規約の冒頭に書きます。店舗向けの規約にも、会員に表示する規約の組み合わせを機能の仕様として書き、店舗が独自の規約を追加するときの手順を決めます。
店舗が契約を終えるとき、会員の契約はどうなるか
店舗が利用契約を解約したり、提供者が店舗の利用を止めたりすると、店舗に紐づいていた会員の予約や前払いの会費、会員のアカウントが宙に浮きます。規約には、少なくとも次の事項を書いておきます。
- 会員への終了の通知は店舗が行う。提供者は、通知を送る機能と協力を提供する。
- 前払いで受け取った会費や回数券の払戻しは、店舗が会員に対して負う債務である。提供者は、店舗の債務を引き受けない。
- 店舗に紐づく会員のデータは、一定の期間内に店舗が取り出せるようにし、その後は削除する(取り出しと削除の書き方は返還・削除のページ)。
- 会員のアカウントを、単独利用者としてアプリに残すのか、削除するのかを決め、会員に選ばせる場合は選択の画面と期限を定める。
- 提供者が決済代金の未払いなどで急に停止するときは、会員の画面に表示する文言を決めておく。
決済の二層構造:提供者が受け取るお金と、会員が店舗に払うお金
予約・会員管理のSaaSの決済は、二つの層に分かれます。上の層は、店舗が提供者に払う利用料です。下の層は、会員が店舗に払う会費や予約代金です。二つの層は債権者も債務者も違うので、混ぜて書くと、どちらの返金やどちらの停止の話か分からなくなります。
決済の二層
会員の支払が、決済事業者を通じて直接店舗に帰属するのか、いったん提供者を経由するのかで、法的な評価が変わります。
下の層の資金の流れは、大きく三つの型に分けて考えます。
会員の支払が流れる三つの型
型A:店舗に直接入る
決済事業者との契約は店舗が結ぶ
- 会員の支払は決済事業者を通じて店舗に帰属する
- 提供者は、連携機能の提供者として手数料を店舗から受け取る
- 提供者が会員の代金を預からないので、資金決済法上の整理がしやすい
型B:提供者を経由する
提供者が会員の支払を受け取り、店舗へ送る
- 提供者が債務者(会員)から資金を受け入れ、受取人(店舗)に引き渡す形になる
- 為替取引に当たるかを、条文と所管官庁の資料で確認する必要がある
- 返金を提供者が立て替える設計も、資金の受入れと引渡しへの関与が生じ得る
型C:決済は店舗の外
現地払いや店舗独自の決済
- 提供者は決済に関与せず、予約の記録だけを管理する
- 決済の停止や返金の問題は店舗と会員の間に収まる
- 利用料だけが、提供者と店舗の間の決済になる
型Bで確認が必要になる条文は、資金決済法2条の2です。金銭債権を持つ受取人からの委託などを受け、債務者などから弁済として資金を受け入れ、受取人に引き渡すことで資金を移動させる行為のうち、各号のいずれかに当たるものを、為替取引に該当するものとしています。第1号は「受取人が個人(事業として又は事業のために受取人となる場合におけるものを除く。)であることその他の内閣府令で定める要件を満たす行為」、第2号は国内から国外、国外から国内へ資金を移動させる行為です。為替取引を銀行等以外の者が業として営むのが資金移動業です(同法2条2項)。
店舗が事業として代金を受け取る限り、第1号のうち「受取人が個人」の類型には通常あたらないと読めます。ただし、内閣府令で定める要件の中身、海外の会員や海外の店舗が絡む場合(第2号)、決済事業者の側の登録の有無など、条文の組合せで結論が決まります。型Bを採るときは、条文と内閣府令、金融庁の公表資料で確認が必要であり、確認ができていない段階で「代金を預かって精算する」という文言を規約に置くことは避けます。
書き方の例(一般的な例) 決済の流れの書き方
代金の流れの記述
理由「受領して精算する」という文言は、提供者が資金を受け入れて引き渡す構造の自認と読まれます。型Aで運用するなら、実装どおりの文言に整えます。型Bで運用するなら、文言を変えるのではなく、実装の法的な確認が先です。
会員が個人で、店舗が事業者として代金を受け取る取引は、店舗から見て通信販売にあたることがあります(特定商取引法2条2項)。通信販売では、広告に価格・支払の時期と方法・提供時期・申込みの撤回や解除に関する事項などを表示し(同法11条)、申込みの画面にも、商品・役務の分量と、11条1号から5号までの事項を表示します(同法12条の6第1項)。会員の申込みが営業のために行うものであれば適用除外がありますが(同法26条1項1号)、個人の会員の通常の申込みは、これに当たらないのが普通です。
そこで、提供者は、店舗が自分の特定商取引法に基づく表記を登録する機能と、決済の前に会員の画面にそのリンクや事項を表示する機能を設計します。規約には、表示の内容は店舗が自己の責任で登録すること、未登録の店舗は決済機能を使えないこと、を書きます。リンクを表示するだけで足りる事項と、最終確認画面に直接表示すべき事項は分かれるので、画面の構成は個別に確認します。税込か税別かは、会費の表示で必ず明記します。
決済事業者の審査・停止・チャージバックによる損失を、誰が負うか
決済機能を提供すると、決済事業者の審査、停止、売上の取消し、残高のマイナスといった事態が、提供者・店舗・会員の三者に波及します。決済事業者の提供条件では、導入の形態によって、売上の帰属や、返金・チャージバックによる残高のマイナスを誰が引き受けるかが変わるものがあります。規約を書く前に、自分の導入がどの形態で、マイナスの責任が決済事業者と提供者のどちらに帰属するのかを確認します。提供者が責任を負う構成であれば、店舗の返金やチャージバックが、そのまま提供者の損失になり得ます。
決済で起きる場面と、規約で決めること
| 場面 | 影響を受ける人 | 規約で決めること |
|---|---|---|
| 会員が支払を争い、売上が取り消される | 店舗。提供者が責任を負う導入なら提供者 | 店舗への求償。残高のマイナスの回収。取消しに関する資料の提出協力 |
| 決済事業者が店舗の審査を保留・停止する | 店舗と会員 | 予約機能と決済機能を分けて停止できること。停止の通知。提供者は審査の結果に責任を負わないこと |
| 店舗が事業を止め、前払いの会費の返金が必要になる | 会員、店舗、提供者 | 返金は店舗の責任であること。提供者が損失を負担した場合の求償。売上金の保留(リザーブ)や出金の保留の権限 |
| 二重予約などの不具合で返金が必要になる | 会員、店舗 | 誰が返金するか。返金時に提供者の手数料を戻すかどうか(全額か、部分返金に応じた按分か)。決済手数料の負担者との整合 |
規約で見落とされやすいのは、返金と会員との紛争対応は店舗の責任と書きながら、提供者が損失を負ったときに店舗へ負担を移す定めを置かない書き方です。定めがないと、損害賠償や不当利得(民法703条)で回収しようとしても、根拠として弱くなりやすくなります。前払いの会費や回数券を扱う店舗ほど、この点は重要です。
条文例店舗向け規約:決済の損失と保留・停止(書き方の例)
- 会員からの支払の取消し、返金、チャージバックその他の事由により、決済事業者または当社に損失が生じたときは、店舗は、当社に対し、当該損失を負担するものとします。当社は、店舗に対する他の債権と相殺することができます。
- 当社は、決済事業者の要請または店舗の事業の状況に照らして必要があると合理的に判断したときは、店舗に通知のうえ、売上金の一部の保留、出金の保留、決済機能の一時停止を行うことができます。緊急の場合は、事後に通知します。
- 店舗は、会員に対する返金を、自己の責任で行うものとし、返金の条件を会員規約に定めるものとします。
- 当社は、決済事業者による審査、停止、手数料の変更について責任を負いません。ただし、当社の故意または重過失による場合を除きます。
相殺は、互いに同種の債務を負担し、双方が弁済期にあるときに認められます(民法505条1項)。規約で相殺できる旨を書いておくと、請求の手間が減ります。
決済機能の停止や遅延について提供者の責任を「負いません」と書き切る場合も、責任制限の条項の全体と合わせて設計します(責任制限のページ)。決済が止まって店舗の売上が止まる損害は、店舗の逸失利益の請求につながりやすい場面だからです。
店舗名義のプライバシーポリシーを、提供者がひな形で用意する方式
会員の情報を取得するのは店舗です。会員が予約するとき、店舗は会員の氏名・連絡先・予約の履歴・体験や来店の記録を、自らの事業のために取得します。個人情報保護法の上で、利用目的を特定して本人に通知または公表し(17条1項・21条1項)、安全管理措置を講じ(23条)、委託先を監督する(25条)のは店舗の側です。提供者は、店舗から個人データの取扱いを委託された立場になるのが通常で、委託に伴って個人データが提供されることは、本人の同意が必要な第三者提供にあたりません(27条5項1号)。
そのため、会員の情報に関するプライバシーポリシーは、店舗の名義で公開されるべき文書です。ところが、小さな店舗はそれを自分で書けません。提供者がひな形を用意し、各店舗が自社名義で採用する方式があります。この方式で規約と運用に書いておくことは、採用の確認と更新の責任です。
情報の種類ごとの取得主体とポリシーの名義
| 情報 | 取得する人 | ポリシーの名義 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 会員の氏名・連絡先・予約履歴・来店記録 | 店舗 | 店舗のポリシー(提供者のひな形) | 提供者は委託先。会員からの開示などの請求の窓口は店舗 |
| 店舗のスタッフのアカウント情報・管理画面の操作記録 | 提供者(利用契約の相手の従業員の情報として) | 提供者のポリシー | 店舗が法人なら担当者の情報。店舗は従業員への周知を負う |
| 単独利用者の登録情報 | 提供者 | 提供者のポリシー | 店舗に紐づかないアプリの利用者 |
| 予約ページや管理画面の閲覧データ(タグ・SDK) | タグを設置した者 | 設置者のポリシーと外部送信の公表 | 店舗が追加したタグは店舗の責任、提供者の標準タグは提供者の責任 |
| カード番号などの決済情報 | 決済事業者 | 決済事業者のポリシー | 提供者も店舗も保持しない設計にする |
ひな形方式で、規約に書いておく事項を整理します。
- 店舗は、ひな形を自己の名義で公開する前に、自店の実際の取扱い(利用目的、第三者への提供、外部への委託、問合せ窓口)と照らして確認し、必要な修正を行う。
- 店舗は、ポリシーを会員の登録の画面からたどれる場所に公開し、公開した旨を管理画面で確認する。
- 提供者は、機能の追加や法令の改正でひな形を改めたときは、店舗に通知する。店舗は、合理的な期間内に自店のポリシーへ反映する。
- 店舗が会員に対して独自の利用目的(たとえば広告メールの配信)を追加するときは、店舗の責任で追記する。ひな形に追記欄を設けておく。
- 会員からの開示、訂正、利用停止の請求は店舗が受ける。提供者は、請求への対応に必要な範囲で協力する。
書き方の例(一般的な例) ポリシーのひな形に関する書き方
ひな形の位置づけ
理由「自由に使用できる」とだけ書くと、店舗の実際の取扱いと食い違ったポリシーが公開されても、誰も気づきません。確認、公開、更新の三点を仕組みにしておきます。
更新の責任は、提供者がどこまで負うかを決めます。通知は提供者、反映は店舗、と分けるのが現実的です。法改正のたびにすべての店舗のポリシーを提供者が書き換えることはできませんし、店舗の実際の取扱いを知っているのは店舗だけです。管理画面に「ポリシーの最終更新日」と「ひな形の最新版との差」を表示する機能を付ければ、通知の義務を機能の仕様として果たせます。
提供者自身が、店舗のデータを統計やサービス改善に使うときは、別の論点が生じます。委託を受けたデータを提供者の目的で使えば、委託の範囲を超えるおそれがあります。統計の利用は、集計して個人が識別できない形にする、店舗から許諾を得るといった整理が必要で、書き方は顧客データのページで説明しています。
会員の健康情報は、入力したら同意したとみなす、では足りない
サービスの内容によっては、持病、けが、服薬、妊娠の有無といった情報を予約の際に店舗が確認する場面があります。病歴は「要配慮個人情報」にあたり得ます(個人情報保護法2条3項)。要配慮個人情報は、法令に基づく場合などの例外を除き、あらかじめ本人の同意を得ないで取得してはなりません(同法20条2項)。取得するのは店舗ですが、予約フォームの項目や管理画面の入力欄は、提供者が設計します。
規約の書き方として考えられるのが、「会員が入力した時点で、情報の取扱いに同意したものとみなす」「店舗は、会員の同意を得て入力する」といった書き方です。この書き方には限界があります。
- 店舗のスタッフが会員から聞き取って代わりに入力する場合は、本人の意思表示が画面の上に現れません。
- 利用目的や、情報が誰に見えるかが示されないまま入力させると、同意の中身が薄くなります。
- 同意を撤回する道筋や、入力した情報を削除する手順が示されていません。
- 入力した人が未成年のときは、法定代理人の同意が絡みます(民法5条)。
同意を「みなす」ことで代用するのではなく、設計の段階で、次の三つのどれを選ぶかを決めます。
健康情報の扱いの三つの設計
入力させない
健康情報の項目を設けない
- 要配慮個人情報を取得しない前提で、予約フォームから項目を外す
- 店舗は、必要な確認を現場で口頭で行い、記録しない
- 自由記入欄には、記載しないよう注意書きを表示する
明示の同意を取る
項目ごとに別の同意の画面を挟む
- 利用目的、閲覧できる人、保存の期間を示して同意を取る
- 同意の日時と内容を記録し、撤回の方法を示す
- 代理入力の場合は、本人の画面で確認させる
店舗に取得の責任を表明させる
入力欄は設けるが、同意は店舗の責任
- 店舗が適法に同意を取得した旨を表明保証させる
- 同意の記録を残す機能を提供する
- 提供者は閲覧できる範囲を限り、委託の範囲を超えて使わない
禁止事項の書き方にも工夫が要ります。「会員に要配慮個人情報の入力を求める行為」だけを禁じていると、会員が自由記入欄に自分で病歴を書き込む場合は、規約の対象外になります。取得の主体が店舗であっても、提供者は委託先として、要配慮個人情報を扱い得る点が安全管理の評価に影響します。自由記入欄への記載を促す表示を禁じ、記載があったときの削除の手順を定めておきます(禁止事項の書き方一般はアカウント管理のページで扱っています)。
条文例店舗向け規約:要配慮個人情報の扱い(書き方の例)
- 店舗は、会員の病歴その他の要配慮個人情報を本サービスに入力するときは、あらかじめ、利用目的を示して会員の同意を得るものとし、同意の記録を保存するものとします。
- 店舗は、会員の同意を得ずに、または会員の意思に反して、要配慮個人情報を入力してはなりません。
- 当社は、前項に反して入力された情報について、店舗の通知を受けて削除することができます。
- 店舗は、会員が同意を撤回したときは、速やかに当該情報を削除し、または利用を停止するものとします。
要配慮個人情報が漏えいしたときの報告の対象となる事態は、個人情報保護委員会規則で定められています(個人情報保護法26条1項)。報告の要否は、規則の条文で確認します。
取引デジタルプラットフォーム消費者保護法と外部送信規律:画面ごとに考える
予約・会員管理のSaaSには、会員が見る店舗ごとの予約ページ、店舗のスタッフが使う管理画面、提供者が営業のために公開するランディングページ(LP)があります。これらは、利用者も、設置するタグも、適用される規律も違います。まとめて「サイト」と考えず、画面ごとに分けて見ます。
画面ごとに見る規律
| 画面 | 主な閲覧者 | 見る規律 | 確認すること |
|---|---|---|---|
| 店舗ごとの予約ページ | 会員(個人) | 取引デジタルプラットフォーム消費者保護法。外部送信規律 | 利用者横断の検索や集客の場があるか。誰がタグを設置するか |
| 店舗横断の検索・おすすめ一覧(ある場合) | 会員(個人) | 取引デジタルプラットフォーム消費者保護法 | 多数の店舗の情報を表示する場にあたるか。申込みの機能があるか |
| 店舗の管理画面 | 店舗のスタッフ | 外部送信規律 | 管理画面に埋め込まれた分析タグ。利用者への通知または公表 |
| 提供者のLP | 営業の相手(事業者) | 外部送信規律。広告の表示規制 | 解析・広告のタグ。表示の根拠 |
取引デジタルプラットフォーム消費者保護法の「取引デジタルプラットフォーム」は、特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律2条1項のデジタルプラットフォームのうち、消費者が申込みの意思表示を行える機能などを持つものをいいます(同法2条1項)。そのデジタルプラットフォームは、多数の者が利用することを予定して構築した場で、商品等を提供しようとする者の情報を表示することを常態とし、提供者と利用者の間で便益が相互に増進していく関係を利用したものです。ここでいう消費者は、事業を行う場合を除く個人です(取引デジタルプラットフォーム消費者保護法2条3項)。
店舗ごとに独立した予約ページを提供する形であれば、この定義の「場」にあたらない可能性が高いと考えられます。他方で、利用者横断の検索や集客の場、おすすめの店舗の一覧があると、評価が変わり得ます。該当するかどうかは、条文と所管官庁の資料で確認が必要です。該当すると考えられる場合には、同法3条が、消費者と販売業者等が円滑に連絡できる措置、表示への苦情に対する措置、販売業者等を特定する情報の提供の求めといった措置を講ずる努力義務を定めています。どちらとも言い切れない段階では、これらの措置を機能と規約に取り込んでおく方法があります。
外部送信規律は、電気通信事業法27条の12に基づく規律です。電気通信事業者または第三号事業を営む者(総務省令で定める電気通信役務を提供する者に限ります)が、利用者の端末に情報送信指令通信を行おうとするときは、送信される情報の内容や送信先などを、あらかじめ利用者に通知し、または容易に知り得る状態に置かなければなりません。ウェブページに埋め込まれた解析や広告のタグが、利用者の端末から外部の事業者へ情報を送る仕組みは、典型的な情報送信指令通信です。サービスの提供に必要な情報や、利用者が同意した情報などは例外とされています。
誰が義務を負うかは、予約ページを誰の電気通信役務として提供しているか、タグを誰が設置するかで変わります。対象となる電気通信役務の範囲は総務省令で定められているので、条文と総務省令、総務省の資料で確認が必要です。規約では、提供者が標準で埋め込むタグの種類を提供者が公表する、店舗が自分でタグを追加できる機能を設けるなら、追加したタグについての通知や公表は店舗の責任とする、と分けておくと、責任の所在が明らかになります。
確かめる問いと理由設計の前に確かめる問い
会員の支払は、決済事業者から店舗に直接入りますか。提供者を経由しますか。
経由するなら、資金決済法2条の2の確認が先です。規約の文言は、実装の確認が済んでから書きます。
会員規約は、誰の名義で、どの画面に出しますか。
会員が見る規約が、店舗の名義であることを画面で分かるようにします。アプリの利用規約との役割分担も決めます。
予約フォームに、病歴や服薬を聞く項目はありますか。自由記入欄はありますか。
項目があるなら、明示の同意の画面の設計が要ります。自由記入欄には、記載しないよう促す注意書きを表示します。
店舗横断の検索や、おすすめの一覧はありますか。
あるなら、取引デジタルプラットフォーム消費者保護法の該当性を、条文と所管官庁の資料で確認します。
予約ページや管理画面に、解析・広告のタグを入れていますか。誰が設置していますか。
設置者ごとに、通知または公表の責任を分けます。
問いの順は、決める順です。決済の構造が決まらないと、損失の割り振りも、特定商取引法の表示の設計も決まりません。
起きがちなこと:三者の責任を押し付け合う構造が残る
B2B2Cの規約でよく起きるのは、条文の不備というより、役割分担の不備です。誰が当事者かを曖昧にしたまま、機能が増えていきます。
起きがちなこと
- 会員向けの規約を提供者の名義で出し、会費やキャンセルを書いてしまう。提供者が会員に対する責任を負うように読まれる。
- 決済は店舗に直接入ると説明しながら、規約には「当社が代金を受領し精算する」と書いてある。
- 返金と紛争対応は店舗の責任とだけ書き、決済事業者や提供者が負った損失を店舗へ移す定めがない。
- 決済の停止の権限を書いておらず、店舗の事業が怪しくなっても、売上金を保留できない。
- プライバシーポリシーのひな形を出しただけで、採用したかどうか、更新されたかどうかを、誰も確認していない。
- 「入力した時点で同意したとみなす」と書き、スタッフが代わりに入力した病歴の同意が取れていない。
- 予約ページの標準タグと、店舗が追加したタグの責任が分かれておらず、外部送信の通知が誰からも出ていない。
- 店舗が解約したあとの会員の前払い会費、会員のアカウント、データの扱いが決まっていない。
規約を出す前の確認
- 三つの規約の当事者と名義を、一覧にして確認したか。
- 会員の支払が流れる型(A・B・C)を決め、型Bなら資金決済法2条の2の確認を済ませたか。
- 特定商取引法に基づく表記を、店舗が登録し、決済の前に表示する仕組みがあるか。
- 決済の損失の求償、売上金の保留、決済機能の停止の条項を置いたか。
- プライバシーポリシーのひな形について、採用の確認、公開の確認、更新の通知を仕組みにしたか。
- 健康情報の扱い(入力させない・明示の同意・店舗の表明)のどれを選んだか。
- 画面ごとに、取引デジタルプラットフォーム消費者保護法と外部送信規律の確認をしたか。
よくあるご質問
予約・会員管理SaaSの規約は、一本にまとめてはいけませんか。
当事者が違うので、分けるのが基本です。提供者と店舗の利用契約、店舗と会員の会員契約、提供者と単独利用者の利用契約は、名義も内容も異なります。会員契約を提供者の名義にすると、提供者が会員の会費やキャンセルについて責任を負うように読まれます。まとめる場合も、どの部分がどの当事者の間の取り決めかを、章立てで明確に分けます。
会員が店舗に払う代金を、提供者がいったん受け取って店舗へ送ってもよいですか。
資金決済法2条の2は、受取人の委託などを受けて債務者から資金を受け入れ、受取人に引き渡す行為のうち、各号に当たるものを為替取引としています。店舗が事業として代金を受け取る場合は、第1号の「受取人が個人」の類型には通常あたらないと読めますが、内閣府令で定める要件や海外が絡む場合を含め、条文と所管官庁の資料で確認が必要です。確認が済むまでは、決済事業者を通じて店舗に直接帰属する構成を基本にします。
プライバシーポリシーのひな形を店舗に配るだけで足りますか。
足りないことが多いです。ひな形が店舗の実際の取扱いと食い違ったまま公開されると、利用目的の特定や通知が不十分になります。店舗が公開前に内容を確認し、公開したことを管理画面で確認し、提供者が改めたときは通知して、店舗が反映する、という流れを規約と機能に組み込みます。
会員が予約フォームに持病を書いたときは、どう扱いますか。
病歴は要配慮個人情報にあたり得て、取得にはあらかじめ本人の同意が要ります(個人情報保護法20条2項)。入力したら同意したとみなす、という書き方だけでは同意の中身が薄くなります。項目を設けない、項目ごとに明示の同意を取る、店舗に適法な取得を表明させる、のいずれかを選び、自由記入欄には記載しないよう促す注意書きを置きます。
店舗ごとの予約ページは、取引デジタルプラットフォーム消費者保護法の対象になりますか。
店舗ごとに独立したページを提供するだけであれば、定義の「場」にあたらない可能性が高いと考えられます。利用者横断の検索や集客の場があると評価が変わり得ます。断定はできないため、条文と所管官庁の資料で確認したうえで、該当し得る場合の措置(連絡の手段、苦情への対応、販売業者等の特定情報)を機能と規約に取り込むかどうかを検討します。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、サービスの仕組みや契約の経緯によって異なることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた法人向けのSaaS・クラウドサービスの利用規約、サービス提供契約書、申込書、実証実験(PoC)の覚書、販売代理店契約書、レビュー報告書、ヒヤリングシートなどを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています(最終確認日:2026年10月21日)。参考: e-Gov法令検索 / 個人情報保護委員会 / 経済産業省 / 国税庁