このページの要点
- 「法人向け」と書いても個人は登録できる。消費者契約法は有償を要件にしないので、無料プランも消費者契約になり得る(2条1項・3項)。
- 無料の利用者への責任は、事業者向けと消費者向けで条項を分け、固定額の上限にする。「無料は0円」は全部免責と評価され得る。
- 休眠アカウントの削除は、起算の基準・期間・通知の回数・猶予・例外まで書く。「一定期間」だけでは運用の根拠にならない。
- アカウント停止は、通知と是正、機能の制限、一時停止、削除の段階に分け、事前の通知を省くのは緊急のときに限る。
結論:無料プランの規約は、軽く作るのではなく「約束しないこと」と「取り上げる手順」を先に書く
SaaSの無料プラン(基本の機能を無料で提供し、容量や機能を増やしたい人に有料プランを案内する、フリーミアムと呼ばれる料金の形)の利用規約は、有償プランの規約から料金の条項を抜いただけで済まされがちです。しかし、無料の利用者には支払の記録がなく、連絡先はメールアドレス1つで、使われなくなったまま増え続けます。
無料プランの規約で先に決めるのは、次の3点です。誰が使うのか(法人だけか、個人が混じるか)。何を約束しないのか(品質、継続、サポート、責任の範囲)。いつ、どの手順で、止めて、消すのか。この3点が曖昧だと、「停止は不当だ」「消えたデータの責任を取ってほしい」と言われたときに、規約が根拠として働きません。
無料トライアルや無償の実証実験から有償契約へ移る契約はPoCとトライアルのページ、支払額を基準にした責任の上限が無料の利用者で0円になる問題の詳細は責任制限のページにあります。このページは、それらを踏まえて、無料プランに固有の書き方に絞ります。
有償の条項をそのまま使うと起きる4つのずれ
有償の顧客と無料の利用者の違い
| 論点 | 有償の顧客 | 無料の利用者 | ずれたときに起きること |
|---|---|---|---|
| 契約の相手 | 法人が申込書で特定される | メールアドレスで登録した担当者個人。会社のためか個人のためかが不明 | 責任制限や自動更新を個人にも当てはめてよいか決まらない |
| 支払の手がかり | 請求書と入金の記録が残る | 支払がなく、支払額を基準にする条項は0円になる | 軽い過失の責任が実質的にゼロと評価される |
| 連絡と把握 | 担当者・住所・請求先がある | メールアドレスだけ。退職や乗り換えで届かなくなる | 削除や変更の通知が届いたことを前提にできない |
| 数と放置 | 数が限られ、営業やサポートが把握している | 大量に登録され、多くが使われなくなる | 預かるデータが増え続け、消す手順もない |
無料プランの利用者は誰か:法人向けと書いても個人は登録する
結論から言うと、「法人向け」と掲げても、無料プランに個人が登録できる仕組みなら、消費者契約法が働く場面を想定して規約を作る必要があります。登録のハードルが低い無料プランには、個人事業主、副業を始めたばかりの人、開業の準備中の人、趣味やサークルの運営に使おうとする人などが登録します。
消費者契約法は、「消費者」を、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除く)と定めています(2条1項)。消費者と事業者との間で締結される契約はすべて消費者契約で(同条3項)、条文は有償であることを要件にしていません。8条の中で有償契約を前提にしているのは、契約の内容に適合しない目的物についての責任を免除する条項の特則である2項だけで、損害賠償の責任を免除する条項を無効とする1項は、有償かどうかで区別していません。「無料なのだから責任を負わない」という理屈は、個人の消費者が相手のときは、規約の効力を支えません。
無料プランに登録する人の類型と、規約での手当て
| 類型 | 消費者に当たるか | 規約での手当て |
|---|---|---|
| 会社の業務のために会社のメールアドレスで登録した従業員 | 会社のために登録したと整理でき、会社が事業者なら消費者契約になりにくい。従業員に代理権があったかは別の問題 | 登録する権限を表明させ、会社が当事者であることを書く |
| 継続して営業している個人事業主 | 事業のための契約なので、消費者に当たらない(2条1項) | 事業のために使うことを表明させる |
| 開業の準備中、副業の初期 | 事業のためかどうかが実態で分かれる。表明だけでは決まらない | 消費者に当たる場合の条項を別に用意する |
| 私的な目的の個人 | 消費者 | 登録を断るか、消費者向けの条項に切り替える |
規約でできることは3つあります。対象を事業者に限り、事業のために使うことを表明させること。登録フォームで会社名や屋号の入力と事業目的の確認を求め、記録を残すこと。表明にかかわらず、消費者に当たる場合の条項を別に用意することです。「事業者限定」と書くだけでは、実態が消費者の利用者に同法が及ばなくなるわけではありません。
無料プランの登録画面で同意を取る規約は、不特定多数に画一的な条件で提供するものとして、定型約款(民法548条の2第1項)に当たり得ます。相手方の権利を制限し又は義務を加重する条項で、信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものは、合意しなかったものとみなされます(同条2項)。法人だけが相手でも、無料プランの条項はこの規定で評価される余地があります。書類の優先関係は契約の組み立てのページで扱います。
条文例利用者の区分と事業目的の表明(条文例)
- 本サービスは、事業として又は事業のために利用する法人、団体及び個人(以下「事業者」といいます。)を対象とします。
- 利用者は、無料プランの利用登録に際し、自らが事業者であること及び本サービスを事業のために利用することを表明します。
- 法人又は団体のために利用登録をする者は、当該法人又は団体のために利用登録をする権限を有することを表明します。この場合、当該法人又は団体が、本規約に基づく契約の当事者となります。
- 前3項の表明にかかわらず、利用者が消費者契約法第2条第1項に定める消費者に当たる場合における第◯条(責任の制限)、第◯条(アカウントの停止)及び第◯条(規約の変更)の適用は、各条に消費者に当たる場合として定める内容によります。
第4項が、後の節の二本立ての条項への入口になります。
プランの内容は規約のどこに書き、あとから縮小・終了してよいのか
結論として、無料プランの内容は別紙のプラン表に書き、規約本体には「変更の手続」と「不利益な変更のときの事前の通知」を置くのが、運用しやすい形です。無料プランは提供者が自由に調整したい部分ですが、利用者はその上に実際のデータを載せています。調整の自由と利用者への通知を、両方書いておきます。
無料プランの内容の書き方(類型別)
規約本文に具体的に書く
容量・回数・機能を条文に置く
- 分かりやすく、争いが少ない
- 数字を変えるたびに規約の変更の手続が要る
別紙のプラン表で書く
規約はプラン表を引用し、表は別に更新
- 規約本体を動かさず表だけ更新できる
- 周知の方法と日数は規約本体で決める
「別途定める基準に従う」とだけ書く
内容は運用側が決める
- 約束と運用の線引きがない
- 変更の手続も決まらない
実務では、機能の仕様変更は事前の通知なしにできるとしつつ、サービスの全部を終了するときは30日前までの通知に「努める」とする規約が見られます。「努める」では、通知しなくても規約違反になりません。無料だから短くてよいとしても、日数を決めて「通知する」と書く方が、行き違いは少なくなります。
容量を減らす、回数の上限を下げる、機能を外す、といった変更を個別の同意なしにできるかは、定型約款の変更の要件で見ます。変更が相手方の一般の利益に適合するか(民法548条の4第1項1号)、契約をした目的に反せず、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更をすることがある旨の定めの有無と内容その他の事情に照らして合理的か(同項2号)が基準です。変更するときは、効力発生時期を定め、変更する旨と変更後の内容、効力発生時期を適切な方法で周知します(同条2項)。2号の変更は、効力発生時期までに周知しなければ効力を生じません(同条3項)。規約に「無料プランの内容を変更することがある」旨と周知の経路・日数を置くことが、そのまま変更の根拠になります。
保存容量や1日のAI機能の利用回数のように、提供者の原価に直結する数字は、規約本文ではなく別紙に置いて、変更の手続を軽くします(料金条項のページにも同じ考え方があります)。
条文例無料プランの内容と変更(条文例)
- 無料プランの内容(利用できる機能、保存できるデータの量、利用回数、サポートの範囲その他の条件)は、当社が別紙「プラン表」に定めるとおりとします。
- 当社は、無料プランの内容を変更し、又は無料プランの提供を終了することがあります。
- 前項の変更のうち、利用できる機能、保存できるデータの量又は利用回数を減らすもの及び無料プランの提供の終了については、当社は、効力発生日の◯日前までに、変更の内容と効力発生日を、登録されたメールアドレスへの送信及び管理画面への掲示により通知します。
- 利用者は、前項の通知を受けた後、効力発生日までの間、保存しているデータを書き出し、又は退会の手続をすることができます。
- 無料プランは、当社が対価を受けずに提供するものであり、当社は、無料プランについて、特定の品質、稼働率及び継続的な提供を保証しません。
「保証しない」と書くだけでは、中断の場面の扱いが決まりません。提供の中断と障害の条項はSLAのページにあります。
無料と有料の間を行き来するときの衝突
「無料で始められる」と案内しながら、実際には一定の期間後に自動で課金される場合、消費者であれば、対価その他の取引条件についての不実の告知による取消し(消費者契約法4条1項1号、同条5項2号)の問題になり得ます。「無料」の案内と課金開始の条件は、画面の表示と規約を一致させます。
有料プランを解約すると無料プランに移る仕組みでは、「契約が終了したらデータを削除する」と「無料プランではデータが残る」が並ぶことがあります。有料プランの解約、無料プランの終了、アカウントの削除を別の出来事として定義するのが整理の基本で、データの返還・削除のページに詳しく書いています。更新の条件は期間・自動更新のページ、料金の改定は料金改定・支払のページで扱います。
無料なら免責されるのか:責任の書き方
結論として、無料であることは、責任を軽くする理由にはなっても、全部を免れる理由にはなりません。個人が利用者に混じる場合、「責任を負わない」「無料の場合は0円」と書いた条項は、消費者契約法で無効になる形に当たります。
事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項は無効です(8条1項1号)。債務の履行に際してされた事業者の不法行為についても同様です(同項3号)。「故意又は重大な過失による場合を除き、責任を負わない」と書いても、軽い過失による責任の全部を免除する条項ですから、同じ号に当たります。軽い過失(重大な過失を除く過失)による責任の一部を免除する条項、たとえば上限を設ける条項は、その条項が重大な過失を除く過失による行為にだけ適用されることを明らかにしていないと、無効になります(同条3項)。上限を設けるなら、当社、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失による場合を除く旨を、上限を定めるその一文の中に書きます。
無料プランの利用者に対する責任の書き方(類型別)
| 書き方 | 文言の例 | 法人の利用者 | 個人の消費者が混じるとき |
|---|---|---|---|
| 全部免責 | 「一切の責任を負いません」 | 事業者間でも、故意・重過失には及ばないと解される余地が大きい | 全部免除の条項(8条1項1号・3号)に当たる |
| 故意・重過失を除く全部免責 | 「故意又は重過失による場合を除き、責任を負いません」 | 最も多い。事業者間では有効と評価される余地が広い | 軽い過失の全部免除で、同じく8条1項1号・3号に当たる |
| 支払額基準で無料は0円 | 「直近1か月分の利用料金(無料ユーザーの場合は0円)を上限とします」 | 上限0円で、軽い過失は実質的に全部免責 | 上限の形でも効果は全部の免除と評価され得る |
| 固定額の上限 | 「無料プランの賠償は◯円を上限とします」 | 受け入れられやすい | 上限の文の中に故意・重過失の除外を書けば8条3項に沿う。極端に低い額は10条の評価を受ける余地 |
| 上限を置かない | 通常の責任の範囲 | 提供者に重い | 最も争いにくい |
無料の利用者の上限は、支払額に連動させず、固定額か、無償の間は「本来支払うべき1か月分」とするのが落ち着きどころです(基準時と下限は責任制限のページ)。加えて、事業者向けと消費者向けで条項を書き分けます。逸失利益や間接的な損害を負わないという除外は、事業者間なら通用しやすい一方、消費者に「間接損害は一切負わない」と書くと全部免除に近づきます。
条文例責任の制限(事業者と消費者で書き分ける条文例)
- 利用者が事業者である場合、当社は、当社、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失による場合を除き、無料プランの利用に関して利用者に生じた損害のうち、通常生ずべき損害に限り、金◯円を上限として賠償する責任を負います。逸失利益及びデータの滅失に伴う復旧費用その他の間接的な損害については、賠償する責任を負いません。
- 利用者が消費者契約法第2条第1項に定める消費者である場合、当社は、当社、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失による場合を除き、無料プランの利用に関して利用者に生じた損害について、金◯円を上限として賠償する責任を負います。前項後段は、この場合には適用しません。
- 利用者が事業者と消費者のどちらに当たるか明らかでない場合は、前項の定めを適用します。
◯円は、無料であることを踏まえた合理的な水準にします。実損に比べて極端に低い額は、10条の評価を受けるおそれがあります。
「現状有姿(あるがままの状態で提供し、特定の品質を約束しないこと)」と書く保証の否認は、提供者が負う債務の内容を限る条項です。ただし「一切の保証をしない」と「一切責任を負わない」を並べると、免除条項として読まれるので、上の条項との整合を点検します。また、無料の利用者のデータに個人情報が含まれていれば、安全管理措置の義務は報酬の有無にかかわらず残ります(個人情報保護法23条)。委託先としての整理は委託先と個人情報のページにあります。
データ:休眠・降格・退会・終了のとき、いつ、どの手順で消すのか
結論から言うと、無料プランのデータは、場面ごとに、保持するのか、見られなくするのか、消すのかを決め、消すときは日数と通知の回数まで書きます。「合理的な期間の後に削除する」「一定期間利用がない場合」では、規約が運用の根拠にならず、争う余地が残ります。
場面ごとに決めておく項目
| 場面 | 決めること | 書き漏れの例 |
|---|---|---|
| 使われなくなったとき(休眠) | 起算日、期間、通知の回数と方法、削除の範囲、例外 | 「一定期間利用がない場合」とだけ書き、期間も通知もない |
| 容量の上限を超えたとき | 新しい書込みの停止か、既存データの削除か、猶予 | 上限を超えると既存のデータが予告なく消える |
| 有料から無料に戻ったとき | 上限を超えるデータの扱い、閲覧のみの期間 | 契約終了で削除と書きつつ、無料に移るため削除されない |
| 退会したとき | 削除の時期、復元の可否、法令上保存する記録、バックアップ | 「完全に削除」と書き、バックアップや記録の例外がない |
| 停止中 | 閲覧・書き出しの可否、保持の期間、調査のための保存 | 停止と同時にデータを裁量で削除できるとする |
| プラン・サービスの終了 | 通知の日数、書き出しの期間、終了後の削除 | 「削除又は保持」し、異議を述べないとだけ書く |
休眠アカウントの削除は、期間・通知・猶予をそろえて書く
利用制限や登録抹消の事由に「最終の利用から一定期間利用がない場合」と書く規約は少なくありません。この「一定期間」が決まっていないと運用が恣意的になるおそれがあるため、具体的な期間、通知の方法、猶予、データの扱いの併記が求められるのが典型です。
休眠アカウントの条項に置く事項
- 起算の基準:最終のログインの日か、API・連携を通じた利用も含む最後の利用の日か。システムが記録している日にする。
- 期間を数字で書く。事前の通知の回数・時期・方法と、メールが届かなかったときの扱い。
- 猶予と復活:通知の後にログインしたら、削除が止まるのか、期間が数え直されるのか。
- 削除の範囲(アカウント情報だけか、データも含むか)と、例外(有料の契約が続いている、法令上の保存、調査や紛争、法人の管理者による保持の指定)。
数字の設計例を挙げます。最終の利用から12か月が経った日に1回目の通知を出し、削除の予定日をその60日後とし、予定日の30日前と7日前にも通知します。最終の利用が3月1日なら、1回目の通知は翌年の3月1日、削除はその年の4月30日です。通知の後にログインしたときは、その日から12か月を数え直す、と書いておきます。日数は事業の実情で決めます。
個人情報保護法は、個人データを利用目的の達成に必要な範囲で正確かつ最新に保ち、利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努めることを求め(22条)、本人は、保有個人データを提供者が利用する必要がなくなった場合に利用停止等を請求できます(35条5項)。使われないアカウントのデータを無期限に持ち続ける運用は、この2つと整合させにくくなります。プライバシーポリシーの保存期間と、規約の休眠の条項は、同じ数字にそろえます。
条文例休眠アカウントの削除(条文例)
- 当社は、利用者が最後に本サービスを利用した日(ログインの日又は連携を通じた利用の日のうち、当社が記録している最も遅い日をいいます。)から12か月を経過したアカウントを、本条の手続により削除することができます。
- 当社は、前項の削除の前に、削除の予定日(通知の日から60日を経過した日以後の日とします。)を定め、登録されたメールアドレスに、削除の予定日、削除するデータの範囲及び削除を止める方法を通知します。当社は、予定日の30日前及び7日前にも、同じ内容を通知します。
- 利用者は、予定日までに、ログインし、データを書き出し、又は退会の手続をすることができます。予定日までにログインしたときは、第1項の期間は、そのログインの日から改めて起算します。
- 登録されたメールアドレスに通知を送信できなかったときは、当社は、送信を試みた記録を保存した上で、前2項の手続を進めることができます。ただし、有料プランの契約が続いているアカウント、法令により保存が必要なデータを含むアカウント並びに調査又は紛争の対象となっているアカウントは、この限りでありません。
アカウントを止めるとき:段階を分け、事前に知らせる場面を限る
結論として、無料プランのアカウント停止は、通知と是正の要請、機能の制限、一時停止、削除の段階に分け、事前の通知なしにできる場面を緊急のときに限るのが、争いの少ない書き方です。実務では「事前の通知又は催告を要することなく、停止、削除、契約の解除をすることができる」と1つの文にまとめる規約が多く、停止と削除の違い、無料枠の悪用と重大な違法行為の違いが書き分けられていません。
無料プランのアカウント停止の段階(例)
不正アクセスなど緊急の場合は、最初の2段階を飛ばして一時停止にできると書いておく
停止の規定には、「理由を開示する義務を負わない」「異議を申し立てることができない」「損害について責任を負わない」と並べるものがあります。不正の検知方法まで明かす必要はありませんが、異議を全面的に塞ぎ、損害の責任も全部否定する書き方は、利用者が消費者のときに、10条や定型約款の不当条項の評価(民法548条の2第2項)を受ける余地があります。落とし所は、停止事由の区分と問い合わせの窓口を示し、事情を説明して再確認を求められる機会を設けることです。見直した結果を覆す義務までは負わない、と書くこともできます。
停止中のデータの扱いも書き漏れやすい箇所です。「停止すると、データは当社の裁量により削除されることがある」とだけ書く規約は、一時停止なのに削除できるという矛盾を抱えます。一時停止の間は保持し、解除の条件が満たされないまま一定の期間が過ぎたときに削除できる、という順序にします。
再登録と複数のアカウントは、無料プランに特有の論点です。停止・削除の措置を受けた人が、同一人物又は関係者として新しいアカウントや第三者名義で登録し直すことを禁止し、見つかった登録は無効として削除する、と定める規約があります。複数のアカウントを禁止して登録情報や端末の情報を照合するなら、その利用目的(不正利用の防止)をプライバシーポリシーに特定して書きます(個人情報保護法17条1項)。
法人の顧客が無料のメンバーや外部の協力会社を招待して使わせる仕組みでは、停止の権限が提供者と法人の管理者の両方にあります。招待された無料の利用者は、招待した法人の契約が終われば権限も終わる、と定める規約があり、招待された側が作ったデータの扱いと、管理者による停止との関係を書いておきます。管理者の責任の分け方はアカウントとセキュリティのページで扱います。
条文例アカウントの段階的な停止(条文例)
- 当社は、利用者が次の各号のいずれかに該当し、又は該当するおそれがあると当社が合理的に判断したときは、その程度に応じ、是正の要請、特定の機能の制限、アカウントの一時停止又はアカウントの削除の措置をとることができます。
(1)本規約又は第◯条の禁止事項に違反したとき
(2)登録情報に虚偽があるとき、又は当社からの連絡に◯日以上応答がないとき
(3)複数のアカウントの作成、自動化されたプログラムによる大量の利用その他の方法で、無料プランの利用上限を回避したとき
(4)第三者の権利の侵害、不正アクセスその他の違法な行為に関連して本サービスが利用されたとき - 前項の措置をとる場合、当社は、あらかじめ、措置の内容、理由の区分及び是正の方法を、登録されたメールアドレスに通知し、◯日以上の是正の期間を設けます。ただし、本サービスの安全の確保、他の利用者又は第三者の権利の保護のために緊急の必要があるときは、あらかじめの通知をせずに一時停止をすることができ、この場合は、停止の後遅滞なく通知します。
- 一時停止の間、当社は、利用者のデータを保持します。解除の条件が満たされないまま◯日が経過したときは、当社は、アカウントを削除することができます。
- 利用者は、第1項の措置に不服があるときは、通知された窓口に、事情を説明して再確認を求めることができます。当社は、説明の内容を踏まえて措置を見直すかどうかを判断し、その結果を通知します。
第1項の各号は、実際の禁止事項と悪用の実態に合わせて入れ替えます。
よくある失敗と直し方、ヒヤリングで確認すること
よくある失敗と直し方
書き方の例(一般的な例) 無料プランの規約でよく見られる書き方と、整えた書き方
責任の上限
理由上限が0円では実質的に全部免責で、個人の消費者には8条1項1号・3号の問題が残るためです。
休眠アカウント
理由期間と手続がないと運用が恣意的になり、削除の根拠として使いにくくなります。
アカウント停止
理由緊急でない違反にまで事前の通知を省く必要はなく、全面的に異議を塞ぐ条項は、消費者に対して評価を受けやすいからです。
他の規約の条番号の引用
理由有償の規約の条番号が動くと、準用の対象がずれても気付きにくいからです。
ヒヤリングで確認すること
ヒヤリングの問いと理由無料プランの規約を作るときの問いと、その理由
無料プランは、何のために置いているか。いつまで続ける予定か。
集客の入口なのか、恒久の料金プランなのかで、保管の期間、終了の手順、サポートの範囲が変わります。
登録できるのは法人だけか。個人事業主や個人も登録できるか。登録フォームで確認している項目は何か。
事業者の表明を取れるか、消費者向けの条項を別に用意するかが決まります。
無料枠で原価がかかるものは何か(容量、AI機能の回数、外部サービスの利用料)。
別紙のプラン表で数字を管理するために聞きます。
システムは最終の利用日を記録しているか。休眠と思われるアカウントはどれくらいあるか。
休眠の条項は、システムが記録できる日を起算日にしないと運用できません。
無料の利用者のデータや利用ログを、改善、統計、AIの学習に使っているか。外部のサービスに送っているか。
利用目的を特定して公表し、範囲を超えて使うには本人の同意が要ります(個人情報保護法17条・18条・21条)。外国にある事業者への提供は同法28条の整理も要ります。
アカウントの停止は、誰が、どのような基準で判断し、問い合わせ先はどこか。
条文に書いた手順を回せるかを確かめます。通知を出す人も窓口もないのに、段階的な停止は書けません。
回答がそろうまで、条文の数字(期間、日数、上限額)は空欄のまま進めます。
起きがちなこと
無料プランの規約で起きがちなこと
- 有償プランの責任の条項をそのまま使い、無料の利用者の上限が0円になる。
- 「法人向け」と書いただけで、個人が登録したときの消費者契約法の問題を想定していない。
- 無料プランの内容を「別途定める基準」とだけ書き、縮小や終了のときの通知の根拠がない。
- 「一定期間利用がない場合」と書いても、期間も通知もないため、削除の運用が止まっている。
- 停止と削除が1つの文にまとまり、一時停止のはずのアカウントのデータが削除できる書き方になっている。
- プライバシーポリシーの保存期間と、規約の削除の期間が食い違う。
利用者の数が多く、一人ひとりへの対応が薄くなる無料プランでは、手順を先に書いておくことが運用の支えになります。顧客データの帰属と利用の範囲は顧客データのページと併せて点検します。
よくあるご質問
法人向けのSaaSでも、無料プランに個人が登録すると消費者契約法は関係しますか?
個人が事業のためでなく契約する場合は、消費者契約法の消費者に当たります。消費者と事業者との間の契約はすべて消費者契約で、有償であることは要件ではないので、無料プランも対象です(2条1項・3項)。対象を事業者に限り、事業のために使うことを表明させる条項を置きつつ、消費者に当たる場合の責任・変更・停止の条項を別に用意しておきます。
無料プランなら、「一切の責任を負わない」と書いてもよいですか?
個人の消費者が相手のときは、損害賠償の責任の全部を免除する条項は無効になります(消費者契約法8条1項1号・3号)。「故意又は重過失による場合を除く」と付けても、軽い過失の全部免責なので同じです。上限を設けるなら、故意又は重大な過失による場合を除く旨を、上限を定める文の中に書き、無料の利用者の上限が0円にならないよう固定額などにします。
使われなくなった無料アカウントは、削除してよいですか?
規約に、起算の基準、期間、通知の回数と方法、猶予、削除の範囲、例外を書いておけば、手続に沿って削除できます。個人データについては、利用する必要がなくなったときに遅滞なく消去するよう努めることが求められます(個人情報保護法22条)。「一定期間」とだけ書いた条項は、運用の根拠として弱くなります。
無料プランのアカウントを、事前の通知なしに停止できると書いてよいですか?
不正アクセスなど緊急の場合に限って事前の通知を省き、それ以外は通知と是正の要請を先に置くのが争いの少ない書き方です。停止と削除を分け、停止の間はデータを保持し、再確認を求める窓口を設けます。理由や異議を全面的に塞ぐ条項は、消費者に対して不当条項の評価を受ける余地があります。
無料プランの機能や容量を減らしたり、プランを終了したりするときは、何をすればよいですか?
規約に変更の手続を置き、機能・容量・回数を減らす変更とプランの終了は、日数を決めて、登録メールと管理画面で事前に通知します。定型約款の変更の要件(民法548条の4)を満たすよう、効力発生時期を定めて周知し、その間にデータを書き出せるようにします。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、サービスの仕組みや契約の経緯によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています(最終確認日:2026年10月22日)。参考: e-Gov法令検索 / 個人情報保護委員会 / 経済産業省 / 国税庁