このページの要点
- 個人プランは消費者契約として扱う前提で、返金なし・全部免責・継続利用で同意の書き方を見直す。
- 最終確認画面に、更新の周期、各回の金額、トライアル後の金額と移行日、解約の方法と期限を出す。
- 「月額」と「30日ごと」は請求回数が違う。年額の途中解約は、返金しない・月割り・再計算の三方式で計算する。
- 解約・退会・アプリの削除を書き分け、ストア課金は解約する場所を示す。返金しないと書けるのは利用者の都合の場面まで。
結論:個人向けのサブスクSaaSでは、表示・トライアル・課金サイクル・解約・返金を同じ内容でそろえる
個人が自分で申し込み、月額や年額で使うSaaS(文章作成の支援、写真やメモの管理、家計や学習の記録、AI支援ツールなど)は、法人向けと同じ利用規約を流用すると、規約の文言が法律に合わないことがあります。個人が事業のためではなく使う場合の契約は消費者契約にあたり、通信販売としての表示のルールも、契約条項の効力を見る規定も及ぶからです。
実務で押さえるべき点は、次の六つです。
- 個人プランの利用者は、消費者契約の相手として扱う前提で組む。法人向けの「返金しない」「一切責任を負わない」「継続利用で同意したものとみなす」を、そのまま持ち込まない。
- 申込みの最終確認画面に、更新の周期、各回の金額、トライアル後の金額と移行日、解約の方法と期限を出す(特定商取引法12条の6)。
- 無料トライアルから有料へ自動で移るなら、有料に移ること、移る日、金額、解約の期限を、トライアルを申し込む前に見える位置に置く。
- 「月額」と書くなら請求は暦の月ごと。「30日ごと」の請求は1年に13回になり得るため、料金表示と計算を合わせる。
- 解約は申込みと同じ手間でできるようにし、効力が生じる時点と最終利用日を確定した文で書く。アプリストア経由の契約は、解約する場所を示す。
- 「返金しない」と書けるのは、自分の都合で解約した利用者が、支払済みの期間の末日まで使える場面まで。提供者の都合で終わる場面は、未経過分を返す。
法人向けSaaSの期間・自動更新・中途解約(提供者の更新停止権、1年契約・月払い、前払金の返還)はSaaS契約書の期間・自動更新・中途解約のページ、料金改定の周知は料金改定と支払条項のページ、法人向けの無償PoCやβ期間はPoC契約書とトライアルのページで扱っています。このページは、個人が申し込む画面と条項に絞って説明します。アプリ配信の特商法表記そのものは別のガイドがあるため、ここではSaaSで食い違いやすい点に限ります。
個人が使うSaaSは、消費者契約になるのか
結論から言うと、個人であることだけでは決まらず、何のために契約するかで決まります。消費者契約法は、「消費者」を個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除く)、「事業者」を法人その他の団体と、事業として又は事業のために契約の当事者となる個人と定めています(2条1項・2項)。同じ個人でも、趣味の記録に使うなら消費者、営業中の個人事業の売上管理に使うなら事業者です。
SaaSの申込み画面では、この区別が見えません。同じフォームから、私的に使う人も、副業の準備に使う人も、勤務先の仕事で使う人も入ってきます。通信販売のルールを定めた特定商取引法(以下「特商法」)は、営業のために、または営業として契約する相手には通信販売の規定を適用しないとしています(26条1項1号)。ただし、この適用除外も、相手方の属性だけで一律に決まるものではありません。
利用者の類型ごとに、消費者契約になるかの見込みと、規約で気をつけること(一般的な整理)
| 利用者の類型 | 消費者契約になるかの見込み | 規約と画面で気をつけること |
|---|---|---|
| 趣味、学習、家計など私的な利用 | 消費者契約になる。消費者契約法の規定も、通信販売の表示のルールも及ぶ | 個人向けの基準で全条項を点検する。事業者向けの免責や返金なしをそのまま使わない |
| 副業を始める前後、開業の準備中 | 事業として行うかどうかの事実関係で分かれ、判断が難しい | 消費者として扱う前提で設計しておくと、後から基準を引き直す必要が少ない |
| 継続して営業している個人事業主 | 事業者として扱われる見込みが高い。通信販売の規定の適用除外にあたり得る | 事業者向けのプランであることを申込み時に確認する欄を置く |
| 勤務先の仕事のために、従業員が個人名義・個人カードで申し込む | 契約の当事者が誰か、何の目的かで分かれる | 名義と利用目的を申込み時に確認し、退職時のアカウントの扱いも決める |
実務で多い誤りは、規約の冒頭に「本サービスは法人及び個人事業主を対象とします」と書いたから、消費者に関する法律は無関係だと考えてしまうことです。申込みの画面が、メールアドレスとカード番号だけで誰でも登録できる作りなら、私的に使う個人が実際に申し込めてしまいます。対象を絞りたいなら、書くだけでなく、入口で担保します。申込みフォームに事業目的で利用することの確認欄を置く、私的利用と分かったときは申込みを承諾しない、または解除できる旨を定める、といった方法です。
法人プランと個人プランを一つの規約に同居させる場合は、個人プランに適用される条項を、消費者契約の基準で読み直します。影響を受けやすいのは、責任の上限、返金なしの定め、自動更新、規約の変更、特商法に基づく表記の五つです。責任制限の書き方はSaaS利用規約の責任制限のページで整理しています。
申込み画面と特商法に基づく表記に、何を載せるか
結論は、申込みボタンを押す直前の画面(最終確認画面)に、継続の条件を一覧できる形で載せることです。SaaSも役務の提供ですから、通信販売の役務提供事業者として、申込み段階の表示(特商法12条の6)が求められます。消費者庁のガイドラインは、広告やランディングページに書いてあるだけでは足りず、申込みの最終段階の画面で確認できることが必要だとしています。参照先のページへリンクで案内する方法もありますが、利用者が参照先で必要事項を容易に認識できる形でなければなりません。
サブスクの場合に、求められる表示は次のように具体化されます。
最終確認画面に載せる事項と、サブスクSaaSで書く内容
| 事項 | サブスクSaaSで書くこと | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 分量 | 提供期間(1か月、1年など)、利用できる範囲(席数、回数、容量)、自動更新があること。解約まで続く契約なら、その旨 | 「自動で更新されます」の一文が規約にしかない |
| 対価 | 各回の金額。初回と2回目以降が違えば両方。トライアルや割引の後に通常価格へ移るなら、移る時期と金額 | 初回の安い金額だけが大きく表示されている |
| 支払の時期と方法 | 各回の請求日(申込日の応当日か、暦の月の特定日か)、カードかストア課金か | 請求日の決め方が規約と画面で違う |
| 申込みの撤回・解除に関する事項 | 解約の方法、期限、手数料の有無、日割りの有無、返金の有無 | 解約の方法に制限があるのに、画面に書いていない |
無期限で続くサブスクの場合、消費者庁のガイドラインは、解約までの総額は分からないことを明確にしたうえで、1年分の支払額のように一定の期間で区切った金額を目安として示すことが望ましいとしています。個人向けの価格は、税込の総額で示します(消費税法63条の価格表示の規定)。外貨建てで決済する設計では、画面の金額と実際の請求額が一致するかを先に確かめます。
誤認させる表示と、取消し
表示事項を載せていても、見せ方で誤認させれば禁止されます(特商法12条の6第2項)。ガイドラインは、「お試し」「トライアル」を殊更に強調しながら実際は継続課金であったり、解約に条件があったりする場合や、「いつでも解約可能」と強調しながら実際は期限や条件がある場合を、誤認させるおそれがある例として挙げています。申込みボタンが「送信する」「次へ」だけで、申込みになることが分からない作りも同じです。ボタンは「有料プランを申し込む」のように、有償の申込みであることが読める言葉にします。
この表示のルールに違反する表示で誤認して申し込んだ利用者は、申込みの意思表示を取り消せます(特商法15条の4)。申込み内容を容易に確認し訂正できるようにしていない画面、たとえば継続課金の申込みとして最初から設定されていて、よほど注意しないと気づかない画面は、顧客の意に反して申込みをさせようとする行為(特商法14条1項2号、同法施行規則16条1項)にあたるおそれがあると、消費者庁のガイドラインは示しています。
条文例最終確認画面の表示文(書き方の例)
- プラン:スタンダード(月額)。1か月ごとに自動で更新されます。料金は月額980円(税込)で、毎月、申込日と同じ日付に請求します。
- 無料トライアル:申込日から7日間。8日目に有料プランへ自動で移り、980円(税込)を請求します。
- 解約:マイページの「プランの解約」から、更新日の前日の23時59分までに手続すると、次回の請求は発生しません。電話や郵送は不要です。解約後も、支払済みの期間の末日まで利用できます。
- ボタン:「有料プランを申し込む」
数値は説明用の仮の例です。特商法に基づく表記のページと、規約の更新・解約の条、マイページの表示を、この文とそろえます。ストア経由か自社決済かで、解約の窓口の記載が変わります。
無料トライアルから有料へ移るとき、どの設計にするか
結論は、自動で有料に移す設計は、表示と通知の負担を引き受ける設計だということです。移らない設計を選べば、課金をめぐる争いはほとんど生じません。選び方を比べます。
トライアルの三つの設計
自動移行型
カードを登録させ、終了日の翌日に有料へ
- 継続率は上がりやすい
- 申込み前に、有料へ移ること・移る日・金額・解約期限を見えるようにする必要がある
- 終了の前に、終了日・金額・解約の方法を通知する
- 解約の期限を、トライアルの終了より大幅に前に置かない
自動終了型
トライアルが終われば止まり、有料は別途申込み
- 意図しない課金がほぼ生じない
- 終了後にデータを何日残すかを書く
- 有料を申し込んだときの最初の期間の起点を決める
無料プランへの降格型
解約すると無料プランに戻る
- 「解約」の意味を説明しやすい
- 降格で使えなくなる機能と、上限を超えたデータの扱いを事前に書く
- 有料の間に作ったデータを、降格後も閲覧・取り出せるかを決める
法人向けの無償PoCや、有料の申込みが先に入るβ期間の起算は、別のページで扱います。
トライアルの条件で、よく崩れる書き方
一つめは、トライアルの有無・期間・条件を「当社の裁量で決め、事前の通知なく変更または終了できる」と書く例です。申込み時に表示した条件と違う内容で有料に移り得るため、表示と契約が食い違います。変更は変更後の新規申込みから適用する、と書く方が整合します。
二つめは、「初回登録月は無料」のような書き方です。暦月の末日までなのか、登録日から1か月なのかが分かりません。月末に登録した人は数日で課金されることになり、「お試し」の印象と食い違います。「申込みの日から7日間」のように、日数か日付で書きます。
三つめは、解約の期限をトライアルの終了日の直前(たとえば3日前)に置く設計です。7日間のトライアルで解約が終了の3日前までなら、自由に試せるのは4日間に縮みます。
四つめは、契約の成立と支払義務の発生が書き分けられていない例です。登録の完了で利用契約が成立し、支払義務はトライアルの終了日の翌日に生じる、と分けて書いておきます。
「月額」「30日ごと」「年額」:課金サイクルの表示と計算
結論は、請求の間隔を表す言葉と、料金表示の言葉を一致させることです。「月額980円」と表示しながら、規約では申込み日から30日ごとに課金すると書いている例があります。暦の月は28日から31日まで長さが違うため、30日ごとの請求は、1年に12回では済みません。
月額980円(税込)の場合の、請求間隔による1年間の違い(申込日を0日目とし、365日間で数える)
| 請求の間隔 | 請求の日 | 1年間の請求回数 | 1年間の支払総額 |
|---|---|---|---|
| 暦の月ごと(毎月、申込日の応当日) | 毎月同じ日付 | 12回 | 11,760円(980円×12) |
| 30日ごと | 0日目、30日目、60日目……360日目 | 13回 | 12,740円(980円×13) |
| 差 | — | 1回 | 980円 |
30日ごとの請求では、1年間に13回請求される年があります。月額の表示から利用者が想定する年間の支払額より、1か月分多くなります。この差を示さずに「月額」とだけ表示すると、誤認させる表示(特商法12条の6第2項)と見られるおそれがあります。月額と表示するなら暦の月ごとの請求にし、31日に申し込んだ人のように応当日がない月は「その月の末日」に請求する、と書いておきます。
年額プランの途中解約:三つの精算方式を比べる
年額は、月額の12か月分より安く設定されるのが普通です。月額980円の12か月分は11,760円で、年額を9,800円とすれば、約16.7パーセントの割引(ちょうど2か月分)です。5か月使って解約した場合の精算を、三つの方式で計算します。
年額9,800円(月額980円)を5か月使って解約した場合の返金額
| 方式 | 計算 | 返金額 | 考え方 |
|---|---|---|---|
| 返金しない | — | 0円 | 期間の末日まで使える設計とセットなら、年額の割引は年間の契約が前提であることを申込み時に示して説明する |
| 未経過の月割り | 9,800円÷12×7か月(円未満切捨て) | 5,716円 | 提供しなかった期間に対応する分を返す。説明がもっとも簡単 |
| 月額の定価で再計算 | 9,800円−(980円×5か月) | 4,900円 | 割引を取り消す方式。月割りとの差(816円)は、解約を理由に利用者が負担する額として働く |
三つめの方式は、解約を理由に利用者の支払額が増える性質を持ちます。消費者契約法9条1項1号は、契約の「解除に伴う」違約金などが、同種の契約の解除に伴い事業者に生じる平均的な損害の額を超える部分を無効としています。再計算の差額が事業者の実際の損害(割引分)に見合うと説明できるか、算定の根拠を示せるかを、規約を書く前に決めます。「返金しない」は、解約後も期間の末日まで使えるなら組みやすい方式ですが、提供者の都合で途中に終わる場面の手当ては別に必要です(後述)。
解約の締切・窓口・退会・アプリストア課金をどう書くか
結論は、「解約」「退会」「アプリの削除」を別のものとして書き分け、課金を止める手続がどこにあるかを一つに特定することです。この区別が曖昧だと、退会したのに課金が続く、アプリを消したのに更新された、という争いが起きます。
締切:更新日の何日前か、何時までか
更新日の7日前や15日前に締切を置く規約があります。個人は更新日を覚えておらず、締切が早いほど、過ぎてから更新に気づく利用者が増えます。更新日の前日までとし、時刻は「更新日の前日の23時59分」のように特定します。到達の時点は、フォームの送信完了の記録など、後から確認できる基準にします。
「期限を過ぎた場合は、翌々月以降の課金停止となる場合があります」と書くと、締切を過ぎた申出が効くのか分かりません。過ぎたときは、次の更新が行われ、その期間の末日まで利用できる、と確定した文で書きます。更新日は、マイページ、更新前のメール、解約画面に同じ形で表示します。
窓口:申込みと同じ手間で
消費者庁のガイドラインは、解約の方法を特定の手段に限る場合、とりわけ、利用者が想定しない限定(電話のうえさらにメッセージアプリを操作させる、追加の個人情報を求める)、解約の受付時間の限定、申込みの手段に照らして容易な手段を受け付けない場合には、最終確認画面でも明確に表示する必要があるとしています。また、電話で受け付けるなら、実際に通じる番号を載せなければなりません。ガイドラインは、制限を表示すれば、その制限が民事上有効になるわけではないとも述べています。解約の理由の入力を必須にする設計は避けます。
解約の流れ:完了の通知に、最終利用日を書く
完了の通知に最終利用日まで書いておくと、「解約したのに請求された」という問い合わせの多くが、画面と通知で説明できます。
退会とアカウント削除は、課金を止めない
退会(アカウントの削除)と、有料プランの解約(課金の停止)は、システムの上では別の処理であることが少なくありません。「退会するとアカウントとデータを直ちに削除します」と書きながら、課金の停止は別に手続が必要だとすると、退会しても請求が続きます。退会の画面で有料プランの有無を表示し、課金を止める手続を先に案内するか、退会の処理に課金の停止を含めます。ストア課金の場合は、提供者の側から課金を止められないため、退会の前にストアでの解約を案内します。削除したデータを戻せない設計なら、削除までに取消しのできる日数を置きます。契約終了後のデータの返還・削除はSaaS解約時のデータ返還・エクスポート・削除のページで扱っています。
アプリストア経由の契約は、解約する場所が違う
アプリストアの決済を使う場合、契約の相手は提供者でも、課金・更新・解約の手続は、ストアの画面と条件に従います。実務で食い違いが出るのは、利用者が購入した経路を忘れている、規約の解約期限よりストア側の手続の期限が前に来る、マイページに解約のボタンがなく提供者に問い合わせても解約できない、といった点です。対策は、購入画面、マイページ、特商法に基づく表記の三か所に、どの経路で購入した場合にどこで解約するかを書き、マイページに購入経路を表示することです。返金の手続がストアの定めに従う場面でも、法令に基づく利用者の権利が消えるわけではありません。
返金・決済失敗・値上げ・未成年者:個人に対して書ける範囲
結論は、利用者の都合で終わる場面と、提供者の都合で終わる場面を分けて書くことです。前者は日割りなしで足りても、後者まで「いかなる場合も返金しない」とすると、条項全体が不当と評価される入口になります。
返金:提供者の都合で終わるとき
サービスの終了、機能の廃止、提供者の判断による利用の停止、二重課金や誤課金は、利用者に落ち度がありません。提供しなかった期間の対価まで返さない定めは、消費者契約法10条の審査を受け、消費者の利益を一方的に害するものとして無効になるおそれがあります。条項で「一切責任を負わない」とする免責も、債務不履行の損害賠償責任の全部を免除する条項として無効です(消費者契約法8条1項1号・3号)。責任の上限を設けるなら、「当社、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失による場合を除き」を上限を定めるその一文の中に書きます(同条3項)。
決済の失敗と強制解約
カードの決済が失敗したときに、猶予期間を置いて強制的に解約し、データを直ちに削除し、年契約・月払いの残りを一括で請求する規約があります。個人向けでは、次の点を整えます。
- 再試行の回数と間隔、通知の宛先を決め、停止の段階を分ける(通知、閲覧のみ、利用停止、解約の順)。
- データは、解約後も一定の期間は保持し、支払が確認できれば復旧できるようにする。
- 残額の一括請求は、解除に伴う違約金として、消費者契約法9条1項1号の審査を受けると見て設計する。
- 遅延損害金の年14.6パーセントは、消費者契約では上限であって標準ではない。これを超える部分は無効(同条1項2号)。
値上げと、更新時の価格
「更新後の料金は更新時点の最新の料金プランを適用し、気づかずに更新しても異議を述べられない」という書き方は、申込み時に見た価格と更新の価格が違い得ることを、最終確認画面に載せていなければ、誤認の問題になります。割引が初年度に限るなら、その旨と2年目以降の金額を示します。規約を定型約款(不特定多数に同じ条件で結ぶ契約の約款)として変更するなら、効力発生時期を定め、変更の内容と時期を周知し、効力発生時期の前に周知しなければ効力が生じない場合があります(民法548条の4第1項から第3項)。個人には、更新日の前に個別のメールを送り、新料金に同意しないなら更新日の前日までに解約すれば新料金は請求されない、という順序を書くと、周知と解約の機会がそろいます。
未成年者の申込み
未成年者が法定代理人の同意なく契約したときは、取り消すことができます(民法5条1項・2項)。規約に「同意を得ているものとみなす」と書いても、実際に同意があったかどうかは事実で決まり、取消しの可能性を消す効果は期待しにくい書き方です。年齢の確認欄を置き、未成年者の申込みには保護者の同意の画面を挟み、取消しがあったときの返金の方法も先に決めておきます。
よくある失敗と直し方、ヒヤリングで確認すること、条文例
結論は、表示・規約・マイページの三つで同じ内容の文を使い回すことです。次に、規約で多い誤りと直し方、ヒヤリングの問い、新しく書き起こした条文例を示します。
よくある失敗と直し方
書き方の例(一般的な例) 個人向けサブスクの規約
トライアルから有料へ
理由申込み時の表示と、実際に課金される条件を一致させる。事前の通知は、解約の機会を確保する。
解約の期限
理由「可能性があります」では、請求されるかどうかが確定しない。確定した文にし、期間の末日まで使えることとセットで書く。
返金
理由利用者の都合の場面と提供者の都合の場面を分ける。後者まで返さない定めは、条項全体が争われる入口になる。
ヒヤリングの問いと理由個人向けサブスクの申込み画面と規約を作る前に
個人が私的に使う目的で申し込めますか。事業者に限っていますか。
消費者契約になるかが決まり、表示のルールの適用と、条項を読む基準が決まる。限定するなら、入口での確認方法も決める。
課金の経路は、自社のカード決済だけですか。アプリストアの決済もありますか。
解約の窓口と期限の書き場所が、経路ごとに違う。両方あるなら、購入経路の表示方法も決める。
請求日は暦の月ごとですか、日数ごとですか。年額はありますか。
表示する金額と、1年間の請求回数・総額を合わせるため。
無料トライアルはありますか。終了後は自動で有料に移りますか。カードを先に登録させますか。
移行時期と金額を、申込み前に見える位置に置く必要があるか、通知を何日前にするかが決まる。
システムは更新日の何時に請求しますか。解約はいつまでに間に合いますか。
締切の時刻を、実際の処理に合わせて確定した文で書くため。
サービスを終了したり、機能を廃止したりするときの、前払いの年額の扱いはどうしますか。
提供者の都合で終わる場面の返金を決めておくことで、返金しない定めの残りの部分を守れる。
未成年者が申し込める設計ですか。年齢の確認はしていますか。
取消しの可能性と、保護者の同意の画面の要否が決まる。
条文例
次の条文例は、個人向けの更新と解約、トライアル、当社の都合による終了を、この記事のために新しく書き起こしたものです。数値は仮の例で、実際のサービスの仕様に合わせて決めます。
条文例更新、解約、最終利用日(書き方の例)
- 本サービスの有料プランは、申込みの際に選択した期間(1か月又は1年)ごとに、更新日に自動で更新されます。更新後の料金は、更新日の30日前までに当社が通知した金額とします。
- 当社は、更新日の7日前までに、更新日、更新後の料金及び解約の方法を、登録されたメールアドレスへの送信及びマイページへの表示により通知します。
- 利用者は、更新日の前日の午後11時59分までに、マイページの「プランの解約」から手続を完了することにより、次回の更新分から課金を停止することができます。当社は、手続の完了後直ちに、完了の日時及び最終利用日を通知します。
- 前項により解約した後も、利用者は、支払済みの期間の末日まで本サービスを利用することができます。当社は、利用者の都合による解約の場合は、日割による返金を行いません。
- アプリストアを通じて購入した有料プランの解約は、当該ストアの定める手続によるものとし、当社のマイページからは行えません。この場合の解約の方法は、購入の画面及びマイページに表示します。
更新の周期、通知の時期、締切、解約後の利用、日割りの扱いを一つの条にまとめた例です。申込み画面の表示と同じ内容にそろえる前提です。
条文例無料トライアル(書き方の例)
- トライアル期間は、申込みの日から7日間とします。トライアル期間の終了日及び終了後の料金は、申込みの画面に表示した内容のとおりとします。
- トライアル期間中に解約した利用者に、料金は発生しません。
- トライアル期間の終了日の翌日に有料プランが始まり、料金の支払義務が生じます。当社は、終了日の3日前までに、終了日、料金及び解約の方法を通知します。
- 当社がトライアルの内容を変更するときは、変更後の申込みから適用します。トライアルの利用は、一人につき一回とします。
条文例当社の都合による終了と返金、責任の上限(書き方の例)
- 当社が本サービスの全部を終了する場合、又は当社の都合により利用者の利用を停止する場合(利用者が本規約に違反した場合を除きます。)は、終了日又は停止日の翌日以後の期間に対応する既払の料金を、日割により返金します。
- 返金は、原則として、料金の支払に用いた方法により行います。
起きがちなこと
- 最終確認画面に「無料で試す」が大きく出て、有料に移る日と金額が小さな文字で離れた位置にある。
- 「月額」と表示しながら、規約では30日ごとに課金すると書いてあり、1年に13回請求される。
- 年額プランの更新の有無が、料金表と後の条とで食い違っている(一括払いは自動更新なし、年契約プランは自動更新、と別の箇所に書いてある)。
- 解約の締切が更新日の7日前や15日前に置かれ、締切を過ぎた申出の扱いが「場合があります」と書かれている。
- 退会してアカウントを削除しても、ストア課金や外部の決済が止まらず、請求が続く。
- 「いかなる場合も返金しない」が、サービスの終了や提供者の停止にまで及んでいる。
よくあるご質問
個人向けSaaSの自動更新は、規約に書いてあれば有効ですか?
規約に書くだけでは足りません。通信販売としての申込み段階の表示(特定商取引法12条の6)で、自動更新の有無、各回の金額、解約の方法と期限を最終確認画面に出す必要があります。表示が誤認させるものだと、利用者は申込みを取り消せます(同法15条の4)。更新の条件は、画面と規約で同じ内容にそろえます。
無料トライアルから有料へ自動で移るとき、最終確認画面に何を表示しますか?
有料へ移ること、移る日、移った後の金額、解約の期限と方法を表示します。トライアルを強調して有料への移行を小さな文字で離れた位置に書くと、誤認させる表示にあたるおそれがあります。終了の前に、終了日・金額・解約の方法を通知する設計も有効です。移らない設計(自動終了や無料プランへの降格)なら、この負担は軽くなります。
「月額」と「30日ごとの請求」は、何が違いますか?
暦の月ごとなら1年に12回の請求ですが、30日ごとだと365日の間に13回請求される年があります。月額980円なら年間11,760円と12,740円で、980円の差です。月額と表示するなら暦の月ごとの請求にし、応当日がない月は末日に請求すると書きます。
アプリストア経由で購入した利用者は、自社のマイページから解約できますか?
ストアの決済を使った契約は、課金・更新・解約の手続がストアの画面と条件に従うため、提供者のマイページからは止められないのが通常です。購入の画面、マイページ、特商法に基づく表記に、購入経路ごとの解約の場所を書き、マイページに購入経路を表示します。退会の前に、ストアでの解約を案内します。
年額プランの途中解約で、返金しないと書けますか?
解約後も支払済みの期間の末日まで使え、年額の割引が年間の契約を前提とすることを申込み時に示していれば、返金しない設計は説明しやすい方式です。割引を取り消して月額の定価で再計算する方式は、消費者契約法9条1項1号の審査を受けます。提供者の都合で終わる場面は、未経過分を返す定めが別に必要です。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、サービスの仕組みや契約の経緯によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています(最終確認日:2026年10月22日)。参考: e-Gov法令検索 / 個人情報保護委員会 / 経済産業省 / 国税庁